2026-09-14
379.イベント予測契約③:ついにCircuit Splitに!
複数の連邦地裁の事案で同じまたは非常に類似的な法律問題の一審が控訴され、二審となる複数の連邦巡回控訴裁判所が異なる判断・解釈を示す場合をCircuit Splitという。
例えば一つの連邦巡回控訴審で同じ問題が「合法」と判断され、別の連邦巡回控訴審で「違法」と解釈される場合等になり、地域毎に法解釈が分かれることになる(全米が11の区域に分けられ、都合11の連邦巡回控訴裁判所が存在する)。
地域により適用される法律の解釈が異なることになるため、これでは国としての統一性はなくなってしまう。
この場合、最終的には連邦最高裁(SCOTUS)が介在し、全国的に統一的された法解釈の判断を示すために審理を受ける可能性が高まる。
スポーツイベント予測契約に係る法的判断でこれが生じたのは連邦第三巡回控訴裁判所(3CA)と連邦第九巡回控訴裁判所(9CA)による連邦法の法解釈が真逆となったためだ。
2016年3月にニュージャージー州による事業撤退退出勧告(C&D)に対し、Kalshiが連邦地裁に州の行動の仮差し止め(PI)を求めた訴訟では、連邦地裁はイベント予測契約は連邦商品取引法(CEA)上のSwapと判断し、州法ではなく、連邦法の適用が優先されることを認めた。
州政府は即日連邦第三巡回控訴裁判所(3CA)に控訴、同控訴審は4月6日に2対1の評決でKalshiによる仮差し止め(PI)要請を認め、Kalshiが勝訴することになる。
一方、ネバダ州の案件もKalshiがネバダ州を訴えた事案だが、2025年11月24日に連邦地裁はネバダ州による仮差し止め要請を認め、12月17日にKalshiは連邦第九巡回控訴裁判所(9CA)に控訴し、州政府行動の仮差し止め(PI)を求めた事案になる。
2026年8月28日に同控訴審は3対0の評決で州政府主張を認め、これは州政府側が勝訴した。
要は3CAでは予測市場契約とは、連邦商品取引法(CEA)で認められたSwap取引で、連邦法の適用が優先されるとしたのに対し、9CAでは予測市場契約は連邦取引法(CEA)上のSwapとは言えず、単なるスポーツの賭け事で、連邦CEA法が州賭博法の規定に優先されることはないとしたわけだ。
もっとも9CAでは、スポーツ関連予測契約に付き判断を示したが、選挙予測契約(Election Prediction Contract)に関してはこれを避け、下級審にその審理を差し戻すこととした。
尚、CEA法上のSwapの定義はかなり広範囲な定義で、3CAはこれを拡大解釈してSwapとしたのだが、9CAはこれを狭い範囲の文字通りの解釈定義としたことになる。
Swapでなければ、連邦法の適用等ありえない。
これは明確なCircuit Splitになる。
控訴審判決に不満をもつ当事者は連邦最高裁判所(Scotus)に裁量上訴の請願(Petition for Writ of Certiorari)を出し、下級審判決の再審査(レビュー)を要請できる。
ニュージャージー州はその提出期限の延長を連邦最高裁判所に要請し、これが認められ9月3日迄延長された。
勿論この期間に別の控訴審でより有利な逆の判決が出る可能性があったためで、現実はそうなってしまった。
9月2日ニュージャージー州は連邦最高裁に正式に裁量上訴を請願した(何と332ページもある。
請願の趣旨は2010年Dodd Frank法に基づきCFTCに登録されたDCMによるスポーツベットは州法に優越するか否かというものだ)。
連邦最高裁は、全ての Circuit Split を自動的に審理するわけではないが、連邦法解釈の在り方が大きな問題となっている場合には、上告を受理したり、自らの判断で事案をレビューしたりすることはありうる。
その他、控訴審では3人の裁判官の評決になるが、例外的に全裁判官が出席する控訴審の大法廷での再審を要求することもできる(en banc reviewという)。
判断を見直し、他の巡回区の解釈に合わせることも理論的には可能ということだが、過去の判例に拘束されるため、これが認められるケースは殆どない。
かつ控訴審裁判官の評決が3対0で反対意見もない以上、まず認められない(因みにこれら3人は全てトランプ大統領による任命だ!)。
あるいは問題が連邦法の解釈に関するものであれば、連邦議会が主導権を発揮し、関連する法律を改正することにより解釈の余地を減らすことでも解決できる。
裁判所ごとに条文の読み方が分かれている場合、議会が文言を明確化すれば、以後の裁判所はその新しい条文に従うことになる。
11月の中間選挙で連邦議会の構成が変わるのか否かにもよるが、現状の連邦議会では法律を変えるという動きは一部議員に留まり、多数派を構成できていない。
やはり、最高裁によるレビューが最も早い近道になるのかもしれない。
もっとも連邦最高裁が2026/27の審査サイクルにこれを取り上げるか、2027/28のサイクルとなるかはまだ解からない。
通常この判断には数か月は必要だ。
かつ3CA, 9CA以外の巡回控訴裁判所による判決が更に確定する場合には、それを待つという連邦最高裁の選択肢もありうる。
その他の控訴事案として審議中のものは2CA(コネチカット州、ニューヨーク州)、4CA(メリーランド州)、6CA(ミシガン州、オハイオ州、テネシー州)、10CA(ユタ州)にあり、本年中に結論がでそうな控訴審もある。
勿論その結果は連邦最高裁にも影響を与えうる。
尚9CAは巡回控訴裁判所の区域としては最大の区域になり、同じ区域の中では強力な判例となり、現状模様眺めをしている州(例えば最大の州であるカリフォルニア州)等が、積極的に訴訟を起こす誘因になるかもしれない。
注目すべきは、Circuit Split が発生しても、問題が必ずしもすぐに解決されるわけではないということだ。
最高裁が事案を取り上げなければ、当面の間、地域によって異なる法解釈が並存してしまうわけで、何と訴訟当事者は、どの巡回区で争うかによって結果が変わる可能性すらあることになる。
既に9CAの判決や最高裁請願を巡り、米国中の様々な主体が喧々諤々の主張を展開するという騒ぎが始まった。
一方Kalshiはどこ吹く風という具合で中間選挙前に陣地を広げ、仲間を増やし、ビジネスを強固に固める戦略をどんどん進めている。
何しろこれは毎週数十憶㌦以上のハンドルが動く巨大な市場だ。
単純に潰せるわけがないという考えもトランプ政権下では成立するのかもしれない。
因みにPolymarketは無節操にも「12月末迄に最高裁は取り上げるか否か」のイベント予測を市場に出したが、Buy Yesが53㌣、Buy Noが49㌣だ。
おいおいというところだが、さてどちらに賭けるべきか?
(美原 融)