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2026-08-31

377.イベント予測契約②:裁判所判決を無視する手法

なるほどこんな手もあるのかと全く驚いたのは連邦先物商品取引委員会(CFTC)の奇策法廷戦術になる。
何と法廷判決を無視する行動を7月~8月の間に二回もとったのだ。

一つ目はミシガン州の訴訟案件になる。
同州では3月3日州司法長官・司法省賭博管理局がIngham郡州第30区巡回地方裁判所に、違法賭博を提供したという訴因でKalshiを提訴し、恒久的差し止め並びに迷惑行為排除を要請した。
翌日Robinhood, Polymarketが今度は州政府を連邦地裁に訴えたという事案になる。
州管轄の裁判所への提訴に関しては、被告が当該案件は連邦地区裁判所にて審議されるべきと判断した場合、被告には訴訟案件自体を移管できる権利がある。
即日Kalshiはこれを実践したが、3月18日ミシガン州は連邦地裁に対し、この移管を拒否し、地方裁判所へ差し戻す訴訟を提起。
6月25日州南部西地区連邦地裁は案件を州裁判所に差戻す命令を判決。
6月29日州Ingham郡第30州巡回裁判所はKalshiに対する緊急差し止め命令(TRO)を認める判決を下した(免許無営業は違法、遵守のため第三者位置情報確認サービス事業者起用義務、違反は12万㌦/日罰金)。
かかる判決がでると、一方的に州司法省が法執行を行えばKalshiは身動きが取れなくなる。
既存の契約は無効とし、解除され、資金返還が要求されたのだが、Kalshiは裁判所の命令に基づく強制清算を可能にするためCFTCに対し連邦商品取引法第40(ç)(1)に基づく緊急事案を要請(自己認証で提出した規則等を緊急事案としてCFTCが認めた場合、その発効を一時停止できる規定)。
一方CFTCはこれを受理せず、逆に7月14日にKalshi要請を停止させ、別途連邦商品取引法第8a(9)条に基づくCFTCの緊急措置権限(Emergency authority)を発動し、何とKalshiに対し州裁判所による判決を無視し、通常通り州内にて営業を継続することを命令した!この条項はCFTCの緊急措置権限を定めるもので市場に緊急事態が生じたとCFTCが判断した場合、取引所(DCM)や清算機関、登録業者に対して、状況是正のために必要な措置(例えば取引の停止・制限、ポジションの清算・縮小、証拠金の引き上げ、価格変動幅の設定など)を直ちに講じるよう命令できるというものだ。
CFTCは州政府の行動により金融派生取引の取引停止や払い戻しを要求することは連邦法で規定された予測市場を瓦解せしめない州政府による逸脱した行為と判断し、緊急措置権限により、市場の秩序を維持するためKalshiに対し、州裁判所の判決を無視し、営業活動を継続する様命令したことになる。
このCFTCの権限は1976年以降4回発動されているが、最後は46年前で殆ど忘れられていた条項だ。
市場が劇的な変動に巻き込まれた時以外は通常こんな手段は使用されないことが常識になる。
CFTCのこの権限の行使は、関連する地域の連邦巡回控訴裁判所によるレビューの対象になるため、おそらく州政府はこの法的根拠を用いてこの行動に対する控訴を継続していくのだろう。

二つ目の案件はNY州司法長官・州司法省が2025年10月24日Kalshiに対し州法違反行為としてC&Dを発出し、これに反発したKalshiが即刻州司法長官・司法省を連邦NY南地区裁判所に訴えた案件だ。
2026年7月7日同裁判所はKalshiによる州政府に対する緊急差し止め命令・仮差し止め命令(TRO/PI)申し立てを棄却、Kalshiが即刻連邦第二控訴裁判所(CA2)に控訴し、審議中でもある。
一方仮差し止め命令(PI)が棄却されたということは、例え控訴審が継続されていても、州司法省・州司法長官はKalshiに対し、民事上の法の執行ができることを意味する。
Kalshiは法の執行を中止させる申し出を別途連邦NY南地区裁判所にしたが、これも棄却。
今度は連邦CFTCが同裁判所に同じ緊急TROを申し出たがこれも棄却された。
2026年7月31日州司法長官はKalshiを被告とし、NY州高等裁判所に対し、直ちに業務を停止させるTROと消費者への損害賠償360億㌦支払い、利益返還要請等の法の執行を要請する手続きに入ってしまった。
Kalshiはこの訴訟も、本来連邦裁判所が審議すべき案件としてNY連邦南地区裁判所に移管したが、同裁判所はこの申し出を棄却し、州裁判所に差し戻す命令を下した。
これに対し、8月11日、やはりここでもCFTCが介在、緊急措置権限を発動し、裁判所の判決を無視することをKalshiに命令した。
ここでも①市場の運営停止はオープンポジションをもった取引を棄損する、②法的な不安定性は市場における需給に基づくべき価格形成を歪める、③一つの州の市場が市場間で移動し、価格形成の格差が生じる等が介入の主たる理由となっている。

三度目のCFTCによる緊急権限の発動がなされるのではないかと危惧されているのがワシントン州の係争事案だ。
3月17日に州司法長官が州消費者保護法違反、業務停止、消費者への損失返還(即ち民事上の法執行)を求めて突然Kalshiを州King郡高等裁判所に提訴したのだ。
Kalshiは即日シアトル西地区連邦地裁に案件を移管、州政府も同連邦地裁に地裁への差戻しを要請、5月5日連邦地裁は、賭博行為は州政府の管轄として差戻しを判決。
Kalshiは連邦第九巡回控訴裁判所に控訴したが、5月21日Kalshi主張には根拠がないとして棄却、地裁へ差し戻しとなってしまった。
7月7日King郡高等裁判所はKalshiに対する差し止め命令(PI)を認める判決を下し、州政府による法の執行が何時でもできる状況が輩出している。
こうなるとミシガン州、ニューヨーク州と同様、CFTCが緊急措置権限を発動する以外、混乱を遮断する方法は皆無といってもよいかもしれない。

法律をこねくり回すと、色んなことができるものだと感心してしまうのだが、米国ならではの混乱なのかもしれない。
根幹にあるのはこの分野を管轄するのは連邦政府なのか州政府なのかという問題でしかないのだが、単純そうに見える問題が過去の経緯と複雑な法体系の中でこんがらかってしまっているのが今の米国なのだろう。
でもこれでは米国では民主主義の根幹である三権分立は機能していないことは明らかだ。

(美原 融)

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