2025-04-14
307.違法オンライン賭博撲滅作戦:欧州諸国
オンラインによる賭博行為は現状欧州の過半の国においてこれを認める制度が構築され、実践されている。
勿論一部の国ではオンラインポーカーやオンラインロッテリーは認められているが、オンラインカジノだけは認めないという国(仏蘭西、キプロス)もある。
但し、オンライン賭博を一定の規制の下で認め、同時に違法オンライン賭博は厳格に取り締まるという趨勢は欧州全般に共通しており、これは変わりそうもない。
EUでは2017年12月以降、賭博やオンライン賭博に関するEU法違反摘発や提訴等を全て取りやめ、賭博行為は各国が自国の制度に基づき、禁止・許諾・規制等の裁量権を各国に委ねるということになった。
この意味ではEU法における域内サービス提供の自由に係る例外的な分野が賭博行為になる。
これは例えEUのどこかの国(例えばマルタや英領ジブラルタル)で合法的な免許を取得し、この国の免許をもってEU域内にオンラインでサービスを提供したとしても、特定国の国内法に基づき国内の免許を取得せず、国外からのオンライン賭博提供となる場合は当該国では違法行為になる。
EU域内を含めた他国からのオンライン賭博提供は、税収も未成年保護施策も無く、過剰な勧誘行為や依存症対策・AML対応等に関しても全くコントロールが効かないわけで、各国とも違法なオンラインサービス提供は厳格に取り締まり、自国民は自国で守るという考えを採用している。
当然のことながら、欧州諸国の過半は自国での免許を取得していないオンライン事業者のサイトやそのウエッブ広告・勧誘サイト等を厳格に摘発し、その提供を遮断する様々な措置を国毎に講じている。
まず実行するのはWebサイトブロッキングだ。
サイトに顧客がアクセスできないようにする防御策になる。
現状では殆どのEU諸国で実践されているのだが、その在り方も制度的背景も様々で同一ではない。
オンラインのサイトブロックの手法としては、ISP(Internet Service Provider)を対象にDNSブロッキング(DNSの問い合わせ内容をチェックし、特定のドメイン名に対する利用者のアクセスをブロックする)、URLブロッキング(ユーザーがURLを探そうとすると、データベース中にあるブロックサイトないしは問題ないサイトと比較し、ブロックサイトである場合、ブロックページへと誘導し、特定のURLへのアクセスを遮断する)、IPアドレスブロッキング(ユーザーがアクセスしようとしているWebサイトのIPアドレスが、違法WebサイトのIPアドレスのリストのアドレスである場合ブロックする)の三つに分かれる。
コストの問題や健全サイトをも過剰にブロックしてしまうオーバーブロッキングの問題があるため、DNSブロッキングが主流の手段になっている。
このやり方も国によって異なる。
規制機関が制度上違法サイトを特定し、ISPに対しサイト閉鎖命令を出せる国(ノルウエー、スエーデン、フィンランド、ドイツ等)もあれば、規制機関は監視・摘発を担うが、裁判所にサイト閉鎖を申し立て、裁判所の判断に委ねる国(ベルギー、デンマーク)もある。
あるいは規制機関が違法サイトをブラックリストに掲載・公表し、ISPに通告して、一定期間(5日)内にリストに掲載されたサイトをブロックする義務がISPに生じるという国(フランス)もある。
サイトブロックも完璧な手段ではなく、悪質な事業者はURLをころころ変えたり、ミラーサイトをもっていたりして、規制を逃れる事も数多く散見されている。
欧州諸国間でサイトブロックと並行して制度化されつつある措置はオンライン賭博の決済行為に着目し、金融機関(銀行、クレジットカード会社、電子Wallet等の決済事業者あるいは決済代行事業者等)に対する支払差し止め命令をすることだ。
違法サイトを特定化し、ブラックリストに掲載され、サイト閉鎖命令がでると、同時的に関連サイトの決済を担う金融機関等に対し支払いのブロックを要請できるという国が多くなってきている。
これも制度や金融当局とのプロトコールに基づき、規制機関がこれを担う国と、規制機関の要請に基づき関連金融規制当局がこれを行う国、あるいは規制機関要請に基づき、裁判所がこれを判断し、裁判所による支払い停止命令となる国等があり、手法は様々になる。
一般的には支払い差し止め命令の方が、ハードルが高いのだがサイトブロックのみでは効果が薄いため、各国とも支払いブロックを併用するようになってきている。
各国に共通する潜在的な問題は賭博規制を担う公的機関と、インターネット等情報関連許認可官庁、法の執行を担う公的機関等機能や権限が複数の省庁にまたがってしまう状況にあることだ。
各々の省庁の合意をバラバラにとっていては時間と費用の無駄で、デジタル時代にはそぐわない。
そこで全ての権限を賭博規制を担う当局に集中させ、できる限り短期間に法の執行ができるように制度を変更してきたのが欧州諸国の実態になる。
それと共に、関連当局による過剰な介入に関しては、公的主体によるプライバシーの侵害、個人情報保護の観点からの課題、行政機関による監視に対する市民の反発等という潜在的課題も指摘されており、法の執行も単純ではないという課題を抱えているのが現実だ。
デジタル時代の不法行為の監視・摘発・法の執行はどこかで国民が納得し、妥協しない限り、解決策は見えてこないのが現実の様だ。
具体の例を見てみると、英国は賭博制度に関しては寛容な国で、オンライン賭博を含め様々な賭博行為が認められているのだが、免許をもたない違法オンライン賭博の摘発もかなり組織的に行っている。
規制機関となるUKGC(英国賭博委員会)は102,000のURLをGoogleに照会し、内64,000のサイトを排除し、264サイトをブロックさせた。
2024年1年間に770の事業者に対し、業務中止・市場退出命令を出している(内、事業者は262社、広告勧誘事業者は205社)という。
規制や監視の対象は事業者、決済関連主体のみならず、プラットフォーム、サーチエンジンやソフトウエア提供者等アップストリームに幅広くなりつつあるのが最近の傾向となっている。
(美原 融)