National Council on Gaming Legislation
コラム

2020-08-14

15.国と都道府県等との関係

現行の地方自治法では、1999年地方分権一括法(地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律)による改正に基づき、国・都道府県・市町村はあくまでも対等な関係にあると位置付けられている。
国が都道府県及び市町村に対し関与する行為、または都道府県が市町村に対して関与する行為は、できるだけ排除し、地方の自主裁量を高めるということが制度上の原則であろう。
地方自治法に基づき、国が一般的なルールとして関与できることは、助言・勧告、資料の提出の要求、是正の要求、協議の4類型に限られ、個別法における関与においても代執行や是正の指示など権力的な関与は原則として設けないことが制度の基本でもある。

IR整備法においても、この原則は基本的には変わらない。
整備法における区域の認定を受け、誘致を実践する主体は都道府県等(都道府県ないしは政令指定都市で市町村等は対象ではない)であり、都道府県等の自治事務として、都道府県等が相当の裁量権と責任を持ち、誘致を実践し、実施協定を締結、その確実かつ的確な実現と実践を図ることが全ての前提になるべきものである。
よって国が過度に都道府県等に関与することは本来好ましくないことになる。
この点、個別法としてのIR整備法は、国による都道府県等に対する権力的な関与を規定している部分があり、解かりづらい側面がある。

IR整備法の過半は、国の規制機関(カジノ管理委員会)と民間事業者(認定設置運営事業者)との関係に係る規定やカジノ免許の要件・申請・付与・更新、免許の対象となるカジノ場での行為と規制・監督等の規定になる。
一方、国と都道府県等との関係とは、IR整備法第2章(第5条から第38条)のみで、IRの区域認定を申請し、国(国土交通大臣)から認定を受ける主体として都道府県等(都道府県並びに政令指定都市)を位置付け、国と都道府県等の関係を規定する。
この中においても、都道府県等に係る条項は極めて限定される。
即ち、①法令に基づき、公募を通じ選定した民間事業者と共に区域整備計画を国土交通大臣に提出し、区域認定(行政処分)を受けること、②認定取得後、民間事業者が認定の要件を満たすことを実施協定で取り決め、その履行を都道府県等がモニター・監督し、国土交通大臣に対し、定期的な報告等を実施すること等がその基本になる。
事業を担う主体は民間事業者であり、国土交通大臣による指示・監督・是正命令等も民間事業者がその対象となる。
一方より詳細な実践のための枠組みは、法令ではなく、都道府県等と民間事業者が締結する実施協定(行政契約)で定められることになる。
現場レベルでの的確な区域整備計画の実践が都道府県等によりモニターされ、何等かの問題が生じる場合には、都道府県等と民間事業者の間で、殆どの問題が解決できる仕組みになると想定できる。
この観点からのみ見ると、国(国土交通大臣)と都道府県等との関係とは、都道府県等の裁量を認める通常の国と自治体との関係に近い。
国の役割は区域認定行為のみで、認定された区域におけるIRの着実な実践は都道府県等に委ねることが本来適切な考えになる。

一方ややこしいことに、国土交通大臣に提出する区域整備計画の中には、都道府県等が策定し、提案、認可を得て実施すべき施策及び措置も含まれる(第9条5号から7号に係るもの。
例えば有害な影響の排除を適切に行うために必要な施策及び措置などだが、これは民間事業者の協力と参加を得ながら、都道府県等による適切な施策及び措置も必要となる項目になる)。
これに伴い、整備法第32条は大臣による都道府県等に対する実施状況の報告徴求、第33条は大臣による都道府県等に対する措置の要求を規定している。
有害な影響の排除のための措置が適切になされていないと国土交通大臣が判断した場合、区域認定の取り消しに繋がる(第35条第四項)帰結をもたらす。
区域認定の取り消しは、IR整備法上最大のリスク事象になり、カジノ免許を含め、全ての許認可・契約が取り消され、デフォルトになりかねない。
よって都道府県等にとってはかなりSensitiveな法規定になる(民間主体の責めに帰すべき理由から生じたのか、行政自身の責めに帰すべき理由が原因なのか、議論が分かれかねないからである)。
但し、「有害な影響の排除」とは、カジノ関連事項であって、本来区域整備計画の中で規定すべき事項ではない。
カジノ免許の制度的枠組みの中で、カジノ管理委員会が規定・管理・監督すべき事項であるように思われる。
ここに国土交通省が関与することには違和感がある。
事業者が満足のいく措置を取れない場合、カジノ免許の取り消しを規定すれば、法の効果は同じであろう。

この様に、IR整備法の一部には、国土交通大臣が、裁量的な権限を持ち、都道府県等と民間事業者をその総体として監督・指示・命令できうる規定が存在する。
民間事業者が、しっかりと施設整備を完工し、着実な運営を担うか否か、これをどう地域としてモニターするかは、実施協定上、都道府県等が当然の行為として担うべき管理事項になる。
よって、民間事業者の管理・監督は本来その全てを都道府県等の所掌とすることもできたはずだ。
国土交通大臣が直接、過度に関与すべき事項ではあるまい。

現行のIR整備法の規定の一部は、国と都道府県等の関係において、明らかにリダンダントな側面がある。
カジノは国の規制機関であるカジノ管理委員会が専権を持つべきだが、地域社会と密接な関係があるという意味においてIRの監督は国土交通省ではなく、都道府県等が担うべき所掌であろう。
国の本音も問題が生じた場合、都道府県等が主体となり、現場レベルでの問題解決に努め、その結果報告のみが国土交通大臣に届く方が、より効率的になり、好ましいはずである。
何も全ての側面に関し、国土交通大臣が裁量的な判断を行使できると見受けられる規定を設けることは果たして適切といえるのか懸念が残る。

(美原 融)

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