2020-09-11
24.政令による中核施設要件と公共政策
IRに関する中核施設とはIR整備法第2条1項にその規定があり、国際会議場(1号施設)、展示場(2号施設)、観光魅力増進施設(3号施設)、観光促進に寄与する施設(4号施設)、宿泊施設(5号施設)、その他施設(6号施設)となり、カジノと一体となり整備されるべきIRの必置施設となる。
カジノ部分はIR全体の総施設延床面積の3%に上限が設定されているため、97%を占めるIRのコアとなる施設群が中核施設になる。
政令は、これら中核施設の在り方を定性的(質、クオリテイ)に規定するが、一部の重要な施設に関してはこれに付け加え、定量的な基準(規模、スケール)も規定する。
即ち1号施設と2号施設(会議場が一般的規模~2000人~の場合、展示場は極めて大規模~120,000m2~、あるいは会議場が大規模~6000人~の場合、展示場も大規模~60,000m2~、あるいは会議場が極めて大規模~12000人~の場合、展示場は一般的規模~20,000M2 ~の3つの組み合わせの内、いずれかのパターン)、および5号施設(客室床面積合計10万m2以上)である。
この施設規模の数値ハードルはかなり高く、いずれもわが国のトップランクの施設規模になることは間違いない。
この結果、施設全体としては、相当の全体事業投資規模が要求されることを示唆している。
IRを実現する公共政策の一つは、カジノが生み出す収益をもって、これまでにないスケールとクオリテイ―のMICE施設や宿泊施設群を含む複合型観光施設(IR)を実現し、わが国国際観光の推進に資する国際観光拠点を実現することにあるとされてきた。
過去、わが国のMICE施設は、公共的施設として地方公共団体が公共投資として整備し、第3セクターが維持管理運営を担ってきた。
これがため、施設規模は諸外国の類似施設と比較すると極めて小さく、都道府県単位で施設の乱立が生じている。
また、施設自体が大きくないため、大規模の国際会議や展示会等を我が国に招致することはできず、国際競争上劣後する地位にあったといえる。
政令にかなり高いハードルを設定したのは事業性が良いと想定されるカジノ施設の運営と一体化して大規模のMICE施設を整備・運営することにより、わが国においても国際競争力のあるMICE施設を含む複合観光施設を実現することが、主務官庁である国土交通省が考えた公共政策ということなのだろう。
果たしてここまで高いハードルを設定することに理があるのかという議論は立法過程でも存在し、また現在も存在する。
問題は下記諸点にあるというべきか。
- 極めて大規模の中核施設を設けることがIR実現の前提となる。
これら施設を設置し、しっかりとした集客を得て、成功裡に施設群を運営するためには、潜在的顧客人口の多い人口集約地域、飛行場との至近性や鉄道等交通の利便性が高い地点、顧客を惹きつけられる多様な魅力や観光資源がある地点がより優位になる。
即ち、大規模施設を前提とする場合、当然のことながら大都市には有利で、地方都市には不利になる。
かつこれだけの施設規模になると、単独事業として顧客を集客し、採算に乗せられる地点は左程多くない。
中核施設自体にそこそこの事業性がないとIRとしては成功しにくい。
カジノの収益で全ての施設の損を賄うということはありえない前提だからである。 - 区域整備計画の申請・認定時点で、これら中核施設に関しては、運営上の数値的な達成目標(例えば訪問客数、イベント・国際会議数等)がKPIとして規定され、その遵守は、年度事業計画、年度事業報告等により、計画-実践-報告・評価の対象になり、KPI未達の場合には都道府県等及び国土交通大臣より是正要求を受ける。
即ち、ハコだけ作れば事足りるではなく、運営自体をしっかりできるという前提が無い限り、うまくいかない。
これは民設民営事業にとりかなり厳格な規定になる。 - 基本方針(案)は、区域認定に際し、要求水準と評価基準を定め、要求水準とは政令に基づく施設要件を満たしていることを評価の前提としている。
即ち、一種の足切り基準として政令の外形要件を満たさない限り、欠格となることを規定する。
例えば事業性確保という観点から、中核施設施設規模を政令要件より低く設定した提案を出した場合、区域認定を受けられないことになる。
同様に認定後、中核施設規模を大幅に縮小し、投資整備計画を見直す場合等も、認定の是非が問われることになる。
環境の変化に伴い、施設規模や投資の在り方は見直すなり、段階的に実現するなど本来柔軟な考えをとってもおかしくないのだが、かかる考えは採用されていない。 - 都道府県等によっては、国が政令により規定した中核施設規模以上の高いハードルを実施方針(案)で設けた所も存在した。
自治体はリスクを取らないという前提の場合、どうしても過剰にこれを利用しようとする衝動が生じ、民により多くの物を期待する考えを誘因してしまうのであろう。
コロナ禍に伴う民間事業者投資意欲の減退により、さすがにこれは見直される模様で、意欲的なコンセプトは姿を消し、いずれも政令の最低許容規模に落ち着きそうである。
IRに係る法令は、大都市、地方都市の区別は一切設けていない。
全ての自治体は法の下では平等で、如何なる自治体も上記条件を満たせる自信があるならば、チャレンジできるというのが表の理論になる。
ところが現実は自治体毎に自治体が抱える市場環境や考慮すべき前提条件や制約要因は大きく異なる。
一定の制度的要件が有利になる自治体もあれば、不利になる自治体もある。
果たしてかかる考えが自治体間における公平性・平等性という観点から問題があるのではないかとする懸念は当初から存在する。
(美原 融)