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2025-03-24

305.違法オンライン賭博撲滅作戦:中華人民共和国

中国ではロッテリーくじと実態はスロットに近いビデオロッテリー以外の賭博行為は(一国二制度のマカオを除き)一切認められていないのだが、歴史的にも社会的にも庶民による賭博行為への性向はかなり強い。
違法であろうがなかろうが、社会的なニーズがある限り、どうしても賭博行為は生まれ、広まってしまう。
インターネットやスマートフォン、電子コマースが社会的に広まると、ネットを通じて国内外に賭博行為を提供する主体が生まれ、これに庶民が参加し、ばれにくい電子決済方法や違法決済手段が横行し、大きな違法賭博市場を構成してしまうのは洋の東西を問わず同じの様だ。
中国でも国内における違法オンライン賭博や海外から提供されるオンライン賭博が社会問題となり始めたのは2010年代になる。
違法行為を放置した場合、社会の安定性や経済的安定性を損ねること、国の資金が国外に遺漏し、犯罪組織による他の犯罪(誘拐、違法監禁、詐欺、マネロン)の誘引になっていること等がその背景にある。
中国政府・公安部(Ministry of Public Safety)は2014年以降かかる違法賭博行為を厳格に取り締まり、摘発するというスタンスを取っている。
単純でないのは、違法事業者は国内、国外両方に跨り、これら事業者を支援する顧客誘致を担うエージェントや資金決済代行事業者、その協力者も国内、国外に跨り数多く存在し、かなりの闇のネットワークが構築されていることだ。
かつ顧客は国内に無数に存在する。
これが為、複数の省庁・国の機関、各省の様々な機関、あるいは他国の捜査機関等とも連携して行動しなければ、効果のある法の執行はできないという事情にある。
サイバー世界での犯罪捜査は中国みたいな強権国家でも結構難しいということだ。
 
オンラインを通じて中国国民に対する賭博を提供する違法サイトは専ら外国にて中国系の資本(多くは犯罪組織)がこれを運営しているのだが、中国国内にも無数の協力者が存在する。
2014年以降、中国政府はこれら中華系オフショアオンライン事業者を摘発するためにフィリッピン、カンボジア政府に違法事業者摘発・排除要請をしている。
当初フィリッピン政府は拒否、カンボジアも非協力的であったが、段階的に協力姿勢に転じている。
2019年以降中国政府は強力に法の厳格な執行を対内的にも、外交関係においても開始した(3ケ年計画でOperation Chain Breakと呼称し、関係各省庁等と協力し、違法賭博撲滅を期す内容になる)。
2019年国内で7,200の案件が捜査対象となり、25,000人が違法賭博容疑で逮捕されている。
2020年には逮捕者の数は110,000人に膨れ上がり、3,400のオンラインプラットフォームや決済プラットフォームを閉鎖した。
同年政府はブラックリストシステムを開始し、中国人を招聘する海外カジノ事業者・施設を特定、ブラックリスト化し、中国人旅行者をかかる施設に行かせないあらゆる措置を取ることを国民に警告している。
またカンボジア政府を動かし、シアヌークビル市に点在していた中国資本による陸上設置型カジノ並びにオフショアオンライン賭博事業者の一斉摘発を行い、関与した中国人の本国送還に成功している。
2020年12月には刑法を改正し(2021年3月施行)、国内でオフショアオンライン賭博を誘致・組織化する行為は犯罪とする旨の規定が追加された。
2021年4月中国政府公安部は国境を超える違法オンライン賭博の更なる摘発強化・厳格な措置を取ることを公言、これら動きが2021年7月のマカオの大手ジャンケット経営者の摘発・逮捕に繋がっている。
9月にはフィリッピン政府を動かし、フィリッピン内の違法オフショアオンライン事業者摘発を行った。
公安部は2022年のみで37,000件の違法オンライン賭博を捜査、2,600のオンラインプラットフォームをブロック、1,100以上のオンラインカジノ、2,300以上のオンライン支払プラットフォーム・地下銀行等を摘発、また1,200以上の支援者、1,600のギャンブル推奨プラットフォームを摘発したことを2023年に公表している。
2024年3月には東南アジア各国の大使館を通じ、中国人国籍を持つ旅行者は当該地域の賭博施設にて賭博行為に参加することは違法とする旨の注意喚起を行った。
また2024年10月には最高人民法院CPC(Supreme People’s Court)は国中の裁判所に対し国境を超えるオンライン賭博に関与した者に対し厳罰を課すことを指示している。
2024年1月から9月迄27,000件の賭博関連犯罪の摘発(これは前年比10.05%増)、73,000件の国境を超える違法賭博の捜査、オンラインプラットフォーム・サイト4,500をブロックしたという。
2024年には国際間の捜査協力も推進され、45の国境を超える賭博事案の摘発、11,000人の容疑者逮捕、3,700人の中国人を外国から強制送還させている。
また四川省長慶重慶市警察は3年間の捜査を経て、中国人にオンライン賭博を提供したDCと名乗るシンジケートをフィリッピン政府と協力し、摘発。
2024年1月/4月には中国・カンボジア警察により、カンボジアから1,200名の中国人容疑者を強制送還(賭博、詐欺等)させている。
2025年1月には政府公安部は更なる国際的な法執行の協力強化を宣言しており、同月のASEAN外相会議で、ASEAN各国に対する捜査協力要請がなされ、ASEAN各国も摘発にのりだしつつある。
この動きは当面止まりそうもない。
数字を一見するだけでも恐ろしい程の数になるのだが、これが中国の現実なのだろう。

いうまでもなく、中国は強権的な独裁国家体制の下にあり、国民は強力な監視体制、厳格な法の執行の下にあるのだが、闇のオンライン違法賭博や違法決済行為は減少するどころか増えていることになる。
それだけサイバー世界での賭博行為は巧妙になってきているということでもあり、これを根絶することは如何に大変かということを理解できる。

(美原 融)

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