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2025-04-28

309.違法オンライン賭博撲滅作戦:Channelization Rate

厳格な廉潔性を審査の上免許を付与して民間事業者に一定の賭博行為を認める国は、当然のことながら、免許を取得せずに賭博行為を提供する主体を違法として厳罰に処することが通例である。
もっともこの違法に提供される賭博行為に顧客として参加する個人をも刑罰の対象とする国と不問に付す国とがある。
日本はシンガポール等と共に前者だが、後者のスタンスを取る国も多い。
また国によっては違法賭博の提供者は重罪、違法賭博に参加する顧客は刑罰の対象とはなるが、微罪ないしは状況次第では起訴猶予とすることも多い。
これは賭博に関する刑罰の根本的な考え方や社会的倫理観が国毎に異なるために生ずる。
違法サイトに参加する顧客の罪が問われない国では、顧客にとって罪の意識もないために、国民の多くが参加してしまうことになる。
リスクのあるサイトを選ぶのか、合法かつ安全なサイトを選ぶのかの選択は顧客にある。
よって放置しておけば合法な免許を取得した事業者と違法な免許を取得していない事業者が市場に併存してしまう。
勿論かかる事態が生じない様に、サイバー世界の違法な賭博サービス提供者を厳格に取り締まり、これらを排除する施策が本来あるべき筋なのだが、これが単純ではないことは諸外国の実情を見ても明らかだ。
違法な海外からのオンライン賭博提供者は、免許もなく、消費者を保護する施策をとっているわけでもなく、かつ税金も納めず、誰からの規制も受けずに賭博行為を提供している。
これら事業者が破綻したり、サイトをある日突然閉鎖したりすれば、預託金も勝ち金も戻ってくることはない。
この意味ではもし、市場で合法事業者と違法事業者が併存する場合には、競争上必ずしもLevel Playing Fieldではないことになる。
税負担が無ければ、顧客取り分をより魅力的に設定できるし、規制が無い以上、顧客に対し、個別の様々な魅力的に映るインセンテイブを付与することも可能になるからだ。
よって国の施策としても、消費者保護という観点からも海外オンライン事業者は好ましくない存在となることは間違いない。
これら海外事業者はその本国で合法的な「免許」を取得しているといっても、軽課税国では免許取得に際し、廉潔性、公平性等を厳格に精査するわけが無く、金さえあれば簡単に免許を取得できる。
よって、その行動がいかがわしい事業者も多い。

このオンライン賭博の世界ではChannelization Rateという用語が用いられることがある。
あまり聞かれない言葉だが、製品やサービスが特定のルートを通じて消費者に提供される割合のことをいう。
例えば正規のルートではない闇のルートにて製品やサービスが提供されたりして、流通をコントロールできていない状況を示す指標でもある。
オンライン賭博の文脈でこの言葉を用いる場合には、合法的な賭博サービス事業者と違法な賭博サービス事業者の間の市場シェアの分配を示す指標になる。
このチャンネル化率が高いということは、多くの顧客が合法的な賭博サービス提供者のサイトを利用していることを意味し、規制当局にとっては健全な市場になっているという指標になる。
逆にチャンネル化率が低い場合には、顧客が違法な賭博サービスの事業者に流れていることを意味し、この結果、税収も遺漏し、かつ業界全体の健全性が損なわれるリスクがあることを示唆している。
このChannelization Rateはソフトプログラムを用い、一定数の顧客を定期的にチェックし、ネット賭博に顧客として参加しているか否か、如何なるサイトに勘定を設け遊んでいるか等の調査を実施し、その後当該サイトの合法性・違法性を検証し、分析した上で試算する。
規制当局は積極的に国民を合法サイトへ誘導するあらゆる施策を取ると共に、違法サイトのブロック、違法サイト関連決済事業者・決済代行事業者等のブロックを実施することになるが、これが功を奏す場合、その国のChannelization Rateは当然高くなる。
あるいはより積極的に合法事業者がより良い魅力的なサービスを提供できれば、当然顧客は合法事業者に戻ってくる。
やはり闇市場と比較して、サービスの質に遜色がないこと、市場における十分な競争力があることが顧客を引き付けるポイントなのだろう。
一方規制を強化し、例えば時間あたりの消費額や預託金の上限等を設ける場合は、顧客が合法サイトを嫌い、より規制の緩い違法サイトへ流れてしまうという現象も起こりうる。
こうなるとChannelization Rateも当然低くなってしまう。

いずれにせよChannelization Rateは顧客が闇市場に流れていないかを検証する重要な指標であることは間違いない。
単なる調査のみではなく、最近は合法事業者から顧客の賭け金行動データを把握し、顧客の行動パターン、事業者のサービスのパーフォーマンスに関わるデータをも取得し、顧客行動の分析やChannelization把握に繋げる試みもなされている。
スエーデンでは2022年調査ではChannelization Rateは77%であったが、2023年には86%へと改善している。
一方ドイツのスロット市場では業界団体の推計によると20~40%だが、これは国としての統一的制度が無く、規制自体がバラバラだからという事情による。
ポルトガルの規制当局(APAJO)による公表数値では何と37.7%と低率で、こうなるとかなり悲劇的だ。
米国では51%(米国ゲーミング協会)だが、これも未だしっかりとした法の執行がなされていないためだろう。
カナダオンタリオ州では2023年には85.3%である。
オランダでは規制当局(KSA)公表資料によると95%、スエーデン、デンマークも略90%になり、数少ない優良国になる。
もっともこれら数値の一部算出方法に疑問を呈する意見もあるのだが、国民の過半は合法サイトで遊んでいる証左になり、市場として安定しており、弊害や問題も少なくなっているはずである。
但し、全ての国がかかる調査をして定期的に市場動向をチェックしているわけではなく、一部の国に限られる。
残念乍らサイバー世界の情報は事程さように極めて限られるのが現実となる模様だ。

(美原 融)

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