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2021-06-09

97.カジノ管理委員会規則案:⑰考慮すべき課題

カジノ管理委員会の規則案のパブコメは5月7日に終了した。
4月2日にパブコメに付されたのだが、潜在的な民間企業から様々な意見が出てきたに違いない。
もっとも規則本文・附則等も含めると何と400ページ以上はある。
法律自体がかなり大きな法律になり、詳細規則等の制定はカジノ管理委員会に委任されているためかなりのVolumeになることはしょうがないのだろう。
但し、これだけ読んでも眠たくなるだけで内容は簡単には理解できない。
法令の条項を参照して規則案の文章が構成されているため、法令の関連条項と規則案の両方を見て初めて詳細の仕組みや内容が理解できるという構図になるので読みづらいこと限りない(PDFではなくHTML形式で関連法令の条項とリンクを張り、クリック一回で同じ画面に表示させ、画面上で操作しやすくする仕組みが外国では常識なのだがこの国では読み手への配慮は眼中にないらしい。
このデジタル化時代にアナログでしか、理解できないということだ)。
それにしてもこれだけの量と内容だ。
外国人投資家にとり翻訳するだけでも最低二週間、例え英訳してもそもそも日本語でもわかりにくい行政文書故、弁護士を起用し、解説させないとまず理解できないかもしれない。
かかる書類をバラバラに各社が翻訳し、大金をばらまくこと程ばからしいことはない。
何と自然発生的に(!)競合する各国の事業者約10社が費用を分担し、共同翻訳をし、時間と費用を縮減し、同一文書を共有した模様だ。
彼らが極めて短期間に何処までこの規則案を読み込み、理解し、如何なる質問等を提出したかは詳細把握していない。
過去英国等では音頭を取る企業が現れ、競合する企業が共同見解・共同質問に至ったことがある。
勿論これは談合とはいえないが、異なる企業が同じ見解を持ちうるという点では、実現すれば面白いものになりそうなのだが、今回はまずその時間は無かったとみる。
それにしてもこれだけの量の行政文書を、過去の検討経緯や背景等一切説明もない儘に成案を提示し、1ケ月を限度として意見を募るというアプローチはあまり感心できるものではない。
整備法はカジノ管理委員会に制定を委任された規則等の制定期限を令和3年7月26日と規定しており、これに間に合わせるぎりぎりのタイミングでパブコメに付したのであろう。
但し、これらの規則案は1年以上の期間をかけ、数十回以上の委員会の議論を経ているはずなのだが、その議論の内容は(項目のみは解かるが)一切公開されていない。
時間をかけ段階的に原案を議論、策定し、これを積み上げてきたはずだ。
本来これらを段階的に公表し、パブコメに付して、段階的に確定することもやろうと思えばできたと思える。
成案ができた後に最後に一括してパブコメに付すという行動は、できうる限り議論を避け、修正無しにこのまま原案通りに確定したい意図があると勘繰られても仕方がないだろう。

さてこのパブコメに付されたカジノ管理委員会規則案だが、内容の80%は技術的・手続き的詳細になり、新たな情報は限られる。
規制の全体の枠組みとしては相応に緻密、かつしっかりできていると思料する。
但し、下記諸点に留意したい。

  • ✓ 一部規則は詳細すぎる。
    厳格さを緩くする必要はないが、全てを緻密に規定する必要が無い部分も多く、抑えるべき点を抑え、詳細は民に委ねてもよい側面が多い:
    カジノ行為の方法として、ゲームのルールをハウスエッジも含めて詳細に記述する規則は他国に例を見ない。
    ゲームのルール自体は規制当局の認可の対象にすることは通例だが、これではまるでデイーラーのマニュアルに近い。
    ルールの要点は顧客に対し公平、公正な勝ちの確率となっているか否か、ハウスエッジは適正かなどにすぎず、詳細はローカルルールも含め、民間提案に委ねることが通常の慣行になる。
    規則とする意味は殆ど無い。
    詳細しすぎると変更、修正ができにくくなる側面もあろう。
  • ✓ 実行性の無い規則、実践できない部分は制定する価値はなく除いた方が良い:
    少額チップの持ち出し禁止を退出時の顧客による申告や、監視カメラ、巡回で事業者が発見に努める等は現実から程遠い、法の執行ができない規定になる。
    テーブルを離れる全ての客は残りのチップを大きな単位のチップに換えて全てポケットに入れる。
    全ての顧客は同じ行動をするはずで、そのまま退場するわけでもなく、別のテーブルで遊ぶかもしれない。
    ここから監視カメラや巡回で外にチップ持ち出す行為を発見できるわけがない。
    実践できない規則は、誰も遵守できず、制定する価値はない。
  • ✓ 本来、規則は固定的ではなく、状況の変化に合わせ、柔軟に改定、増減されることがあるべき基本:
    規則は法令とは異なり、カジノ管理委員会が授権されている範囲において、委員会の判断で改定、修正、追加、削減することが可能なはずである。
    環境変化や技術の発展、ゲームの嗜好の変化等カジノを巡る環境は常に変化しつつあり、規制の内容もあり方もこれら市場の変化に則して変えていくことが本来の規制の在り方になる。
    如何なる方針を規制当局が取るのかは不明である。
    規制当局の判断の不断の検証が必要になると共に、規制の実践がどうなるかは今後の課題となる。
  • ✓ 透明性の高い、市場との対話は、健全、安心な法の施行には必須の要素:
    規制機関の役割は一方的な規制の策定、その施行だけではなく、本来カジノ業が健全、安全に施行され、発展し、顧客が健全にカジノを楽しみ、法が企図した目的を実現することにカジノ規制の観点から寄与することにある。
    このためには市場関係者との密接な対話と実務に対する理解も必要である。
    日本的な環境の中で、透明性の高い市場との対話をどう実現できるのかは今後の大きな課題になる。

規則案はこれが全てではない。
今後とも足りない部分を補足したり、修正したりしていくことになるのだろう。

(美原 融)

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