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2021-06-07

96.カジノ管理委員会規則案:⑯制度と実務の狭間、インターフェースの問題

一つの行政処分(免許、認定、認可等)に基づき民が投融資事業を行ったりする場合や、一つの行政契約に基づき官民が権利義務を取り決め、これに基づき民が投融資事業を行ったりする場合は行政府と民間との関係は単一、直線的で仕組みとしては解かりやすい。
もっとも現実の社会はそんなに単純なものばかりではなく、公と民の関わり方もかなり複雑になる。
過去20年間のPPP/PFI(公民連携)の実践は、様々な仕組みの試行錯誤の歴史でもあった。
国と広域自治体、広域自治体と基礎自治体の組み合わせが民にとり一緒の顧客となる場合等は、役割を峻別し連名契約とするか、どちらか一つの公的主体が民との契約対象になり、別途自治体間の取り決めで内部的に役割を分担する。
民間も複数企業がSPCを構成し、表は単一企業とし、内部的に各社が役割を契約で分担する。
公的主体が民間事業者に融資する銀行団と別途直接協定を締結せざるを得なくなったのは、金融機関が民間事業者の有形・無形資産とキャッシュフローを担保化するからだ。
資産の在り方次第では公的主体が金融機関による担保の設定・担保権の行使に関与せざるを得ないという理由による。
複数の行政処分が複数の公的主体によりなされ、これが事業のベースとなり、かつこの他に事業の実施に行政契約が絡む場合等は公と民の関係は更に複雑化してしまう。
核になるのは投融資を担う民間事業者なのだが関係者が増えれば増える程、様々な実務的インターフェースの問題が生じるからだ。
簡素化、単純化できれば良いが、そうはいかないケースもある。

IR整備法の場合は、簡素化できえないケースだ。
国土交通大臣による都道府県等に対する区域認定行為、都道府県等と認定設置運営事業者(民間事業者)による(行政契約となる)実施協定、カジノ管理委員会が認定設置運営事業者に付与するカジノ免許、認定設置運営事業者が締結する融資契約、融資金融機関が都道府県等と締結する直接協定等、複数の公的主体、複数の民間事業者が異なる手法を用いて直接的・間接的に事業に関与する。
問題はこれらの関係性だ。
それぞれの仕組みは異なる制度的・実務的背景に基づき、本来直接的関係はないのだが、特定の事象が生じた場合、これらがリンクしてしまう可能性がある。
例えば何等かの事情により区域認定が解除されるとき、民間事業者のカジノ免許が剥奪されるとき、都道府県等が実施協定解除に向けた行動をとるとき、事業性が悪化し融資銀行団が期限の利益喪失事由を宣言するとき等である。
これは一つの事象が別の行政処分や行政契約における別の事象とリンクする可能性を含意し、実務的に一種のクロスデフォルト状態が生じることを示唆している。
勿論必ずしも同時的に起こるのではなく、一定の契約論理に基づき、連鎖的に起こりうる。

ではどういう関係性にあるのかを若干紐解いてみよう。

  • ✓ 上位にある考えは国土交通大臣による区域認定(行政処分)である。
    この区域の中においてのみ認定設置運営事業者は免許を得てカジノを施行できる。
    区域認定を取り消された場合、カジノ免許は即失効する。
    一方カジノ免許が剥奪されても区域認定自体は即失効することはない(但し、IRの趣旨は崩れるため、他の事象をトリガーとし、時間の問題で認定解除に繋がりうる)。
  • ✓ 実施協定(行政契約)は区域認定が取り消される場合、カジノ免許が剥奪される場合、契約解除に繋がりうるが、措置の在り方は当事者間の協議次第となる。
    カジノ外の中核施設は商業施設として残りうるからである。
    実施協定が(何らかの当事者間の債務不履行事由に基づき)解除される場合、区域認定解除に繋がる。
    これに伴いカジノ免許も剥奪される。
  • ✓ 融資契約(民―民)では、区域認定取り消し、カジノ免許剥奪、実施協定解除等の場合は全て期限の利益の喪失事由(契約解除)になる。
    もっとも、これら行政処分、行政契約とは関係の無い事由で、事業者の事業性が悪化し、一定の財務制限条項を満たせない場合、銀行団主導で事業者を管理し、これが期限の利益の喪失に繋がることがありうる。
    事業者が健全な経営を維持できえない状況を意味し、これは区域認定、カジノ免許、実施協定の剥奪や解除理由に繋がりうる。

この様に、一つの仕組みが崩れると、時間の問題でそのインパクトが全体に波及する。
もっとも単純でないのは、IR自体は様々な機能を内包する複合観光施設でもあり、制度上のIRは消滅したり、カジノ部分がなくなったりしても、自律的に生き残れる施設群もありうることだ。
この場合国土交通省もカジノ管理委員会も関係なくなり、地域に残される施設群や雇用をどうするか、債務をどう払うかという優先課題が都道府県等と民間事業者と債権者(銀行団)の主要関心事になる。
全てを取り壊し、現状復帰させても意味が無く、残された施設群をどう再生し、地域社会を守り、債務を弁済するのかという点のみが焦点となる。

インターフェースの諸問題は法により解決できる問題ではない。
但し、実務的に利害関係者が一定の事象をトリガーとし、通告、対話、協議等によりあるべき措置を議論できる枠組みを予め設けておくことが有用になる。
実務的に欠けているリンク(ミッシングリンク)はカジノ管理委員会と融資金融機関との関係だ。
都道府県等とカジノ管理委員会はインパクトの関係性は薄く、特段の配慮は不要だろう。
その他は全て間接的にリンクする枠組みは既にできている。
問題となりうる兆候やリスクが顕在した場合、これら利害関係者が協議等により解決策を模索できる実務的道筋だけは当初の段階から構築しておくべきであろう。

(美原 融)

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