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2021-06-02

95.カジノ管理委員会規則案:⑮日本的な内部統制の在り方

IR整備法は民設民営のカジノ賭博を認める前提として、厳格な法令・規則を前提とし、他の法令とは比較できにくい規制の塊のような大法律になる。
カジノ業に従事する主体(法人、自然人)は通常の産業とは異なり、求められる法遵守(コンプライアンス)の範囲は広く、そのレベルもかなり高い。
近年上場企業はJ-SOX法の効果もあり、企業統治や内部統制・コンプライアンス等の概念が一般化し、法令・規則等を遵守し、これを実践し、評価する体制を構築することが、常識となりつつある。
一方、IR整備法が求める内部統制の枠組みはこれに上乗せする形で、より緻密に事業者による内部統制を要求する仕組みとなっている。

米国の主要州では一般的な上場企業が順守すべき様々な法的規範のほかに、カジノ業に関しては特別の法令ならびに、規制当局による規則が存在するが、詳細な行為準則等はMICS(最低内部管理基準)と呼ばれる内部統制の仕組みにこれを委ねている。
大きな共通的枠組みはガイドラインとして規制当局が提示するが、これをもとに各事業者が独自の内部規範を策定し、規制当局の認可を得ることでその履行が法律上の義務になるという仕組みである。
この枠組みはかなり詳細に亘り、各部門、個別業務毎にこれが行為準則として策定され、その遵守が職員に求められている。
またこの実践を監視監督する内部組織として社内横断的な組織(コンプライアンス委員会)を設け、主要な企業行動は全てこの内部許可を必要とし、かつ別途社内監査委員会を設け、そのPerformanceにつき一部重複的な企業の内部統制を実施している

我が国においても類似的にMICSをどう制度の中で位置づけるかという議論はかなり前から存在したが、開示された規則案を見ると、日本的な仕組みで諸外国と類似的な内部統制の仕組みを考えている模様だ。
このコアになるのが「業務方法書」(法第53条、規則案28条)になるのだろう。
これは単純な企業内のマニュアルかというとそうでもない。
この規則案の中で方法書という言葉はちょっと面白い用語になる。
例えばカジノ行為の方法書ははそもそもカジノ賭博とは何かを定義する目的で事細かに規則案別表1にて何と203ページに亘り、詳細な手順等を定義している。
これは規則として定義された方法書だ。
一方業務方法書の方は事業者が策定するもので、職員にとってはマニュアルになると共に、遵守すべき行為準則を兼ねるものの様だ。
その目的は法令や規則を補完し、自律的な行為規制を採用することを要求していると想定され、企業統治の観点からは極めて重要な書類となる。
法令・規則案ではその考え方と内容・構成される項目を把握することができるが、その範囲はかなり広範囲になる。
例えば、依存防止、犯罪収益移転防止、入場規制、カジノ行為、特定金融、契約、広告及び勧誘、カジノ行為関連景品類、秩序の維持、苦情の処理、従業者、GGR集計手続き等になり、内一部の業務方法書は免許申請と共に提出し(規則案28条)、免許審査の対象になり、カジノ免許交付と共に認可されると想定され、その修正は全てカジノ管理委員会の任意の対象になる(規則案140条)。
その他の業務方法書は行為準則を設け、その作成、変更も遅滞なく、届け出する義務があるものや、営業開始前迄に作成、認可の対象になると共にその変更も認可の対象になるものもある。
これら分野・項目に関しては、教育訓練の実施、行為準則の作成、業務統括管理者・業務監査者の選任、内部管理に関するその他の措置を取ることも事業者の義務とされている。
上記は法令及び規則による規範と、事業者が自らの判断で取り決める内部統制の考え方をうまく複層的に組み合わせて実践を図るという考え方になる。
勿論これら以外に、区域整備制度の観点から企業の財務的内部統制報告書の国土交通大臣への提出義務(法第28条8項)等もあり、上場企業に適用されるJ-Sox法の要素をも配慮することが必要なのだろう。
米国諸州の考え方と同じではないが、類似的であることは間違いない。

実務的にこれらの業務方法書を策定、認可を得て実践することには課題もある。

  • ✓ 業務手順書を策定するのは結構大変な作業になる。
    かつこれはカジノ免許申請時にアップフロントで策定し、提出を要求される。
    免許申請を何時行うかにもよるが、3~4年後を想定し、かなり細かい組織・体制構築案とこれを動かす詳細行為準則までをも作らざるを得ない。
    勿論これは将来当然のことながら変更も可能だが、申請段階でもかなりしっかりしたものを作らないと鼎の軽重を問われかねないことになる。
  • ✓ 横断的な内部管理組織(コンプライアンス委員会)と共に、内部監査・外部監査の仕組みを効率的に設ける必要がある。
    組織を構築するのと平行的に詳細な業務方法書・行為準則を精緻化していくのであろう。
    この在り方は健全なカジノ行為を実践するに際しての肝になる。
    但し、これは時間をかけて構築していくもので単純にできるものではないことを理解する必要がある。
  • ✓ 事業者は複数(最大3社)となる可能性があり、個別の分野・行為によっては行為準則や内部管理が全く異なるというのもおかしい側面がある(例えばケージ管理手法。
    監査上も一定の規律が要求される部分等は行為準則がバラバラでは困る)。
    個別事業者毎に異なる行為準則内部規制が実施されることがおかしい分野に関しては、何らかのガイドラインなりカジノ管理委員会による調整行為があってしかるべきだろう。

組織や体制の整備と内部統制の在り方は平行的に構築されなければ意味がない。
まず規則有りきではないわけで、時間をかけ検討する必要がある規範や、実践を通じて効率性や効果を見ながらUp-dateせざるを得ない規範等も今後必ず出てくるに違いない。
日本的な内部統制の在り方は、まだ大きな骨組みができただけであり、これをどう肉付けしていくのかは将来の実務的な課題でもある。

(美原 融)

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