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2021-05-31

94.カジノ管理委員会規則案:⑭事業活動に支配的影響力を有する者

「支配的影響力を有する者」という表現はIR整備法の枠組みでは免許を申請する主体(法人ないしは自然人)との関わり合いを表す概念として用いられている。
法のみならず、規則案においても、同じ表現が随所に現れる(第8条7項、第18条4項、第19条4項、第20条4項、第97条4項、第124条4項、第130条4項、第131条4項、第132条4項、第144条4項、第155条4項、第160条4項、第161条4項、第162条4項、第170条4項、第171条4項、第172条4項、第190条4項)。
沢山あるように思えるがパターン化された規定の文章が免許の種類毎に記載されているだけで考え方としては極めて単純だ。
カジノに係るコアな業務に係る様々な免許申請者、並びに当該申請者と出資、融資、取引等何等かの商業的行為を担う主体の清廉潔癖性を免許申請の一部としたり、関連する契約自体を認可の対象とし、当該契約者の清廉潔癖性を審査したりするという考えに基づいている。

今後パブコメへのカジノ管理委員会による対応や何等かのガイドライン策定等により、段階的にその考え方が明らかになるのであろうが、「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則」(犯収法)にも全く同じ表現が異なるコンテクストで用いられており、このパブコメに対する政府見解や関連業界による対応等は参考になりそうだ。
関連する条項は犯収法第4条第1項、施行規則第11条で取引時確認の際に当該取引主体の実質的支配者を確認することに係る条項になる。
同法規則第11条に「出資、融資、取引その他の関係を通じて当該法人の事業活動に支配的な影響力を有すると認められる自然人」という表現がある。
平成27年のパブコメでは「これでは評価概念で現実的な認定は難しい」との民の質問に対し、「支配的な影響力については意思決定権限の支配の程度を重視する」(パブコメ109,114)という回答がなされている。
これは、特定事業者が取引時確認の際、対象主体の申告情報から評価する義務に関連するもので、IR整備法の場合とは状況はかなり異なる。
興味深いのはこの規則に対応して作成された業界団体のQ&A解説書で「出資、融資、取引その他の関係を通じて当該法人の事業活動に支配的な影響力を有すると認められる自然人とはどのようなケースか」につき具体例として下記を説明している。

「① 法人Aの大口債権を持つ上場企業Bが、その立場を利用し、事業経営の意思決定を事実上支配しているような場合、
② 法人Aの顧問である個人C(法人Aの株式(議決権)を 10%保有)が、代表権を持たない顧問等の立場ではあるものの、創業者の一族であり、その意思決定により事業経営を事実上支配している場合、
③ 法人Aの会長である個人B(法人Aの株式(議決権)20%保有)が代表権を有しており、かつ筆頭株主であることから、個人B自らに法人Aの決裁権限を集約して 意思決定を行っており、代表権を持つ社長の意思が事業経営に反映されないなど、個人Bが事業経営を実質的に支配している場合」(日本証券業界「犯罪による収益の移転防止に関する法律及び同政省令に関するQ&A」改定4版令和2年9月)。
尤も実質的支配者の評価基準に関しては、議決権25%超、上場企業は不要、評価するのは規制者ではなくあくまでも特定事業者等IRとは背景は大きく異なる。

上記は、「意思決定権限の支配の程度」に着目する場合、対象範囲や評価の手法はかなり狭くなりうることを示唆している。
IRの場合、左程単純にはいきそうもないのは、評価判断する主体は規制当局であって事業者ではないのだ(即ち立場は逆になる)。
単なる「影響力の行使」は商行為としては契約の条件としてもありうるだろう。
但し、「支配的影響力」となると、では何が支配的なのかという議論になる。
対象となりうるツールには人、モノ、カネ、情報等色々ありうるかもしれない。
また、支配的とは第三者を凌駕し、優越的な地位にあり、初めて使える言葉になる。
かつ、支配的な立場にあっても、業務活動に対し、必ずしも影響力を行使できるとは限らない場合もある。
逆に、支配的でなくても影響力を行使できるということもありうるだろう。
影響力の行使も直接的である場合もあれば、間接的な場合もある。
出資行為は単純明快だが、融資や取引になると話は微妙になってくる。
評価判断基準を明確に決めきれない場合が多いからだ。
もっとも支配的な立場を利用した影響力の行使とは商行為においてそんなに頻繁に事象として現れるものではないことも事実ではないかと思われる。

カジノ事業者と何等かのビジネスの関わりを意図し、これを実践する事業者は、関係性(契約)をベースにカジノ管理委員会の認可対象の範囲に入ってしまう可能性が高い。
更に、一定の取引関係を通じて、カジノ事業者に対し支配的影響力を行使しうる主体と見なされた場合、企業のみならずその役員迄調査・精査の対象になってしまう可能性もある。
その判断基準は現状必ずしも明らかではなく、このままだと規制当局の恣意的な主観的判断に左右されてしまう公算が高い。
形式ではなく、この規則案の他の部分と同様に、実態基準でカジノ管理委員会が評価・判断することになるのだろう。
今後、この部分につき如何なる議論がなされるのか、あるいはなされないのか、興味のある所だ。

(美原 融)

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