2026-06-01
365.IR:カジノ中国人VIP賭博市場はどうなる?
高市総裁発言に端を発する中国による様々な制裁措置やいやがらせは当面続きそうだ。
日本を来訪する中国人旅行客も激減しており、中長期的にこれが継続する場合、様々な悪影響もありうるとする意見も多い。
ことIRカジノ業に関しては、従来から様々な潜在的事業者や有識者等が中国人VIPの存在とその売り上げへの潜在的貢献が殊更強調されてきた感がある。
インバウンド観光客数は環境や政治要因で大きく変わる可能性があり、6年先のことを今から予測することは難しい。
中国人VIPを過剰に拡大評価することはさすがに修正されているだろうが、VIP等は本当に日本に来たければあらゆる手法を使っても来るはずで、この問題で動揺することは意味がない。
より注目すべきは、中国政府は自国の刑法適用に際し、属地主義(どこで犯罪が行われたかを基準とし、その国の刑法を適用する原則)を基本としつつも属人主義(行為地ではなく、行為者の国籍を基準に刑法を適用する原則で、自国民が海外で犯罪を犯した場合でも、自国の刑法で処罰できる)をも併用しているという事実だ。
中国刑法7条は、中国人が国外で犯罪を犯した場合でも中国刑法を適用できるとし、8条には中国人に対する国外犯罪は中国刑法を適用できるとある。
問題はこれが政府の裁量により適用されやすいことにある。
特に中国人による海外における賭博行為は違法なのだが、厳格な法の執行がなされているわけでもない。
但しこれは状況次第で変わりうる。
中国政府は2019年以降国内外における違法賭博摘発・撲滅の動きをとっており、中国国内におけるオンライン違法賭博の検挙、マカオでの中国人富裕層を対象とした違法決済業務等に関与したジャンケット事業者の摘発から始まり、中国国内において組織的に腐敗撲滅運動と絡み、違法賭博関連関与者が摘発・逮捕されてきた。
この一連の動きは関連国連組織が2024年に公表した報告書に詳しい。
マカオ、中国本土を根拠地としていたこれら一連の違法事業者は、今度はフィリッピン、カンボジア、ラオス等の東南アジア諸国に移動し、これらを拠点とし、オンラインを利用し、中国本土の顧客を対象にし、Live video streamingにより賭博行為を提供することを初め、この決済手法に様々なオンライン手法を用い、違法に中国本土顧客に資金を支払わせる慣行が大々的に行われてきたのが実態である。
勿論これはマネーロンダリングであり、当然のことながら違法になる。
中国政府当局はこれにも目をつけ、フィリッピン、カンボジア、ラオス、ミャンマー等の国々に政治的圧力をかけ、違法賭博としてこれら国の公安当局と連携し摘発に踏み切り、中国人関係者を逮捕させ、何千人もの不法中国人滞在者を中国に強制送還させてきたというのが2025年迄の実態だ。
とてつもない大きな闇市場が東南アジアを中心に数年の間に構築されたことになる。
この結果、相当規模の違法カジノやオンラインカジノ事業者・施設が摘発されたのだが、全てがなくなったわけではない。
メコンデルタ地域には国境周辺にカジノ施設が多い国も多く、免許や規制等も極めてルーズな状態のまま、犯罪組織が関与してきたのが実態だ。
これら施設は中国人来訪者を顧客にしたり、ネットを通じ中国大陸の顧客にオンラインで賭博行為を提供したりしている。
それだけ中国市場は巨大で、厳格な取り締まりはなされているとはいえ、未だ不十分な側面もあるのだろう。
尚中国は前述の通り、自国民による犯罪に対し、犯罪地を問わず、自国の刑法を適用できる。
中国規制当局の考え方次第では、今後様々なことがおこりうる可能性は否定できない。
極めて興味深いことに2024年3月に至り、シンガポール、韓国、フィリッピン、スリランカにある中国大使館は来訪中国人観光客に対し、勧告を発出し、中国人が外国のカジノ賭博施設において賭博行為に参加することは中国法に違反する行為になることを喚起し始めた。
シンガポールにおいてすら、同国にある二つのカジノ施設(Sands, Resort World)に中国人旅客が参加することは中国法に違反し、違反する場合には大使館による領事保護は受けられないとある。
2025年春節のゴールデンウイークも同様にシンガポール、ベトナム等の大使館が中国人旅行客に対し、警告を出している。
当該国では合法的な施設であっても、中国人市民が国境を越えた賭博行為(Cross border gambling)に参加することは、中国法上は違法、いかさま、マネーロンダリング、誘拐、拉致、密輸等のリスクもあるとし、慎重な勧告ではあるが、今後中国政府が如何なる行動をとるかは今一つ明らかではない。
中国観光客は今や東南アジア諸国においては、過去も現在も重要な来訪客のセグメントを構成し、この中には専ら賭博行為を楽しむために国外に赴く中国人も多いのであろう。
これを支援するためにマカオにいたジャンケット事業者が東南アジアで類似的なサービスを提供してきたという事実もあるようだ。
もっとも外国にある在外公館は自国の国民を保護できるが、海外において中国法の違法行為を自らが摘発し、取り締まることはできない。
但し、何らかの端緒情報を得て、証拠を押さえ、対象中国人が帰国した際に、摘発・逮捕することはありうる。
この可能性に現実性がある場合、中国人旅客に対してはかなりの抑制効果がある。
より深刻かつ現実的な問題が生じるのは、中国人旅客や中国人富裕層を専らの重要顧客という前提をとっていた外国のカジノ賭博施設であろう。
例えば韓国の外国人専用カジノの主要顧客はVIPを含め、中国人と日本人だが、中国人がこれなくなれば外国人専用カジノというビジネスモデル自体が成立できない。
同様に東南アジア、あるいは日本等も含めて、中国人富裕層に焦点を当てた積極的なカジノマーケテイグや営業戦略は再考せざるを得なくなる。
それでも中国人旅行客や富裕層が外国に旅行し、カジノで遊ぶことは止められないし、一定程度の顧客数は維持されることになるのだろう。
但し、中国人VIPとことさら対象を特定化し、集客を進め、あまり目立ちすぎる活動をすると、中国政府による政治的反発を招き、ブラックリストの施設に指定されるということも理論的にはありうる。
例え日本の施設でもだ。
いや今や日本の施設だからこそかもしれない。
(美原 融)