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2021-03-15

72.カジノ行為:① ローリングプログラムは認められるのか?

ローリングプログラムとは高額賭け金上顧客(所謂VIP)向けに提案され、提供されるカジノ行為の遊び方の枠組みみたいなものになる。
滞在中に一定の金額で遊ぶことを前提に一定の資金を訪問前に予め預託(デポジット)し、カジノ施設の特定の場所(一般顧客が立ち入れないVIPルーム)において、特定のチップ(ローリングチップあるいはノンネゴシエ―シアブル、デットチップともいう)を用いて遊ぶことになる。
この結果、勝ち負けがどうなろうと、顧客に対し、賭け金総額に応じて合意された一定のインセンテイブ(キャッシュバックや様々なコンプ)を付与する仕組みになる。
専らマカオ、シンガポール、オーストラリアなどのアジア大洋州の国々のカジノ施設でVIP顧客に提供されるサービスプログラムとなっている。
もともとこの発端は、マカオにおいて広告・宣伝・マーケッテイングの手法等が無い時代に、高額賭け金の上顧客をどうカジノ施設に誘致するかという施策でもあった。
来訪する顧客にインセンテイブを付与すると共に顧客を開拓し、連れてくる代理人に対しても、顧客の賭け金に応じたインセンテイブを付与する仕組みとして発展してきたものである。
この代理人がマカオ特有のジャンケットへと発展していくのだが、ローリングプログラム自体はジャンケットがいなくても成立するため、ここでは特段触れないことにする。
尚、米国では特典としてのコンプ・プログラムは盛んだが、キャッシュバックを含むローリングプログラムはあまりポピュラーではない。

顧客にとり、このローリングプログラムとは、遊ぶことを前提に一定金額を預託すると、宿泊費や食費の割引や無料券、航空券プレゼント等のコンプリメンタリー(通称:コンプ)と呼ばれる特典や、滞在終了時点で賭け金総額に応じて、一定のキャッシュバックを得ることができる。
顧客はカジノで勝とうが負けようが特典分は受け取ることができるため、実態は損していても、「お得感」や「お値頃感」が生まれるのだ。
もし勝っていれば更にこの感覚は高まる。
顧客は預託金額をVIPルームでローリングチップとして引き出し、遊ぶことになるが、このチップ自体は換金不能、そのルーム以外では無価値となるため、使いきることになる。
負ければチップは取られてしまう。
勝てば、(現金可能な)勝ち分はキャッシュチップで支払ってくれる。
但し、これはゲームでは使えないため、再度ローリングチップに変えて遊ぶことになる。
預託金がなくなれば手持ち追加資金で再度ローリングチップに交換することも可能。
この様に特定のチップを回す(ローリングする)ことで、顧客の賭け金総額を正確に捕捉し、これをインセンテイブ計算のベースとすることになる。
通常の場合、ローリングプログラムの最低預託金額は日本円で数100万円以上で、ローリング総額の0.6%から0.8%でキャッシュバックまたは宿泊代、食事代に充当されるような仕組みになる。
また総額が高くなればキャッシュバックとは別に宿泊や食事は無料化される慣行もある。

一方、カジノ施設側にとってのメリットとはこのローリングプログラムはVIP顧客誘致の有力なマーケテイングのツールになりVIP顧客を囲い込むことができることにある。
カジノ行為自体は施設間で差別化することは難しいが、カジノ施設側がどの程度のコンプやキャッシュバックを提供できるか否かで、顧客がカジノ施設を選別する傾向があるからである。
このプログラムの内容次第で、優良顧客を囲い込むことができ、競争上優位に立つことができる。

かかるマーケテイング手法の一つとしてのローリングプログラムは、わが国において認められるのであろうか。
単純な回答がでないのは、このローリングプログラム自体が様々な制度的要因や課題を複合的に含んでおり、全ての要素を満たせる解が無い限り、単純にこれが可能と言えないことにある。
VIPという定義やマーケテイング手法という用語はIR整備法では用いられていないのだが、顧客与信、預託、顧客勘定管理に関する規定はあり、高額賭け金行動に係る規定、マネーロンダリング法制、コンプに係る規制・記録義務等の規定がある。
チップの規定はあるが、機能的には制度上の定義とは異なるローリングチップを用いることができるのか、採用できるのかなどの規定はない。
キャッシュバックをどう制度上位置付けるのか、顧客との約定をどう取り決めるのかという問題もある。
かつこれら取引を会計的・税務的にどう処理できるのかという付随的な課題も存在する。
2020年末の国税庁~党税調との議論の中では、コンプの課税上の取り扱いが議論になり、「・・賭金額等に応じ、一定の基準に基づき行うキャシュバックは売り上げ割り戻しに該当するなど課税上の取り扱いを明確にすること」と令和3年与党税制大綱に規定された。
インセンテイブの一つの在り方としてキャッシュバックを明示的に論じた文章になるが、税法上の取り扱いの原則を考え方として規定したにすぎず、これがどう実現できるかにはまだ細かい課題がある。
カジノ管理委員会が単純にかかる取引を認めたというわけではないことに留意が必要だ。

要は全体をひとくくりにする制度概念は我が国のIR整備法にはない。
かかる事情により、個別の規則や規定に抵触するか否かは、これら問題を個別分野毎に検証し、分野ごとの枠組みの中で何ができるか、制度的障害はあるのかないのかをチェックし、想定しうる課題を一つ一つクリアーにしていかないと、全体のプログラムとして整合性があるのか否か、実行性のあるプログラムとなるか否かを判断できないことになる。
まことにややこしい話なのだが、残念ながら、包括的にできる、できないという判断を今の段階で下せる状況にはない。
今後規則等を精緻化し、規定していく過程で想定されるプログラム全体を視野に、個別の課題を検証し、解決策を見つけていくことになりそうだ。
できないことはないと想定されるのだが、どうできるのかについては懸念事項も多いということに尽きる。

(美原 融)

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