National Council on Gaming Legislation
コラム
  • HOME »
  • »
  • 306.違法オンライン賭博撲滅作戦:オーストラリア

2025-03-31

306.違法オンライン賭博撲滅作戦:オーストラリア

オーストラリアの賭博制度は各州・準州特別区域に管轄権があり、制度・規則制定、免許付与、監督・監視、法の執行は全て州単位になる。
連邦政府の役割は国としての全体の賭博政策の調整でしかない。
もっともややこしいのは州政府を跨る政策指針は連邦政府が担うことだ。
例えば、連邦法である2001年Interactive Gambling Actは、州を跨るオンライン賭博規制法になり、州政府が制度として認知したオンライン賭博以外のオンライン手法によるオーストラリア国民に対する賭博提供行為を全面的に禁止している。
この法律は競馬等の競技、スポーツベッテイングのオンラインによる提供は例外としており、これらは州・準州政府の免許に基づき、オンラインでも提供されている。
この様に全くややこしいことに、禁止されているオンライン賭博と州政府により認められているオンライン賭博がサイバー世界に併存していることになる。
オンラインによる提供が禁止されている賭博種とは、スロット、カジノにて提供される様々なテーブルゲーム、オンラインによるスクラッチ、オンラインによる競技中のスポーツベッテイング、その他州政府許可なしに提供される全てのベッテイング、ロッテリー等だ。
一方、豪州に存在する外国資本の事業者が、豪州国民には賭博サービスを提供せず、外国(オフショア)に向けてサービスを提供することは特定の国々を除き、違法とはされていない。
かつ豪州国民は外国から提供されるオフショア事業者の(違法な)オンライン賭博に参加しても罪に問われることはない。
よって例え違法であってもサイバー世界で(違法に)提供される賭博サイトに国民が参加してしまうことは当然ありうる。
まことにややこしいこと限りが無いが、賭博関連州法規定は各州・準州を合わせると60以上もあり、全てが同じではないため、国全体に跨る制度としては必ずしも一貫性があるとはいえないという事情もある。

2001年Interactive Gaming Actは、諸外国ではまだこの問題に手を付けられていない当時としては画期的かつ先駆的なネット賭博規制法でもあった。
但し、オンラインの技術が左程発展していない段階での制度でもある。
その目的は、消費者保護、賭博関連法の廉潔性の維持、市場をモニターし、違法オンラインサイトをブロックし、ネット賭博の危険性を国民に教育するためにある。
市場をモニターする政府機関としてACMA(豪州情報通信メデイア機構)が指定され、違法行為告発・通告の受領、調査、法執行機関(警察当局)への通告・摘発、インターネットサービスプロバイダー(ISP)に対する通告(サイト閉鎖命令)等を担う。
また法は特定のInteractive Gambling Serviceのメデイアにおける広告掲載等を禁止している。
但し、制度としては先駆的でもあったため、極めて慎重な手順しか規定していない。
法はインターネットサービスプロバイダー(ISP)やプラットフォーマーに違法オンラインサイトを排除するための業界団体自主倫理規定や技術標準を定めることを求め、これを遵守させることが制度のベースラインになる(基本的には強制ではなく、任意である。
但し、業界団体が自主的に規範を作成しない場合はACMAが制定することができ、かつ業界団体の規範案をACMAは修正できる)。
ISPが自らの判断と自己規制によりサイトの不適切性を判断し、これを排除することになるが、もし通報等によりACMAが違法サイトを認識した場合には、排除通告をすると共に、連邦裁判所に対し当該サイトの閉鎖・停止を申し立てることができるという仕組みだ。

但し、オンライン分野の技術の急速な発展により、Interactive Gaming Act自体が既に時代遅れになり、非効率的ではないかという指摘がでてきたと共に、消費者にとっても解り難いという意見が強くなってきた。
これにはオンライン分野における賭博市場が年度毎に拡大し、違法オンライン賭博の存在と弊害を無視できなくなってきたという事情もある。
かつ、Interactive Gaming Actの法規定自体に明示的に海外(オフショア)事業者がオーストラリア国民に対し賭博サービスを提供すること自体を禁止するという条文が無いことも問題視された。
何が合法で、何が違法なのかという判断基準が必ずしも明確ではなかったことになる。
州政府の免許が無ければ違法というだけでは不十分なのだ。
政権与党は2013年の選挙に際し、IGA法の法執行規定を強化することを公約の一つに掲げ、2015年9月に当時の社会サービス大臣並びに情報通信・広告大臣は独立した識者に対し、オフショア(海外)賭博の検証(Review of Illegal Offshore Wagering)を委託した。
同年12月に報告書が提出され、19の提言がなされたが、2016年4月に政府はこれら提言をほぼ原則同意し(Government Response to the 2015 Review of the Impact of Illegal Offshore Wagering)、①消費者保護のための賭博弊害への対応となる国としての統一的なフレームワークの創設、②海外オフショア事業者が国民に違法賭博サービスを提供することの明示的な法規定を設ける法改正の実施、③違法行為の法執行を可能にするためのACME権限の強化(ACMEによる行政罰賦課権等)を三段階に分け、段階的に実施することを取り決めた。
バランスの取れた包括的な枠組みの中で、消費者を保護しつつ、違法サイトの摘発と排除を推進するという施策になる。
これら方針に伴い、実際に違法サイトのブロックをACMAが積極的に行い始めたのは、ACMEの機能が強化された2017年以降になる。
同時的に違法オンライン賭博決済のブロックも段階的に実施されつつある2024年迄にACMEは1,500のサイトドメインをブロックし、関連事業者のオーストラリア市場からの撤退を促し、撤退した事業者は220社になるという。
複数の異なる施策を平行的に、かつ効果的に実践すれば確実に違法オンライン事業者を抑止できるということなのだろう。

(美原 融)

Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.
Top