National Council on Gaming Legislation
コラム
  • HOME »
  • »
  • 129.区域整備計画案~課題とは?~

2021-10-25

129.区域整備計画案~課題とは?~

2021年9月末国土交通省観光庁は区域整備計画評価の際の評価基準項目毎の配点表、重みづけを公表した。
1000点を満点とし、主要5項目(ア:国際競争力のある魅力ある滞在型観光への寄与-450点-、イ:経済的社会的効果-150点-、ウ:事業を安定的・継続的かつ安全に運営できる能力及び体制-200点-、エ:カジノ事業の収益の活用-50点-、オ:カジノ事業の設置及び運営に伴う有害な影響の排除等-150点-)に分け、更にこれをサブ的な25項目に仕分けし、各々に点数を配布したものだ。
提案は合計点数で評価されることになるが、何点以上とれば認定、それ以下の場合には失格という足切りはない。
項目的に相対的重要度を与えられているのは中核施設の整備・運営にあり、その体制構築と着実な実践になる。
この関連項目を合わせると半分の500点は獲得できることになるため、ここに焦点を充てる戦略が高得点をもたらすのだろう。
もっとも、点数は詳細項目毎にあまりメリハリが効かない形で細分化され、割り振られているため、提案毎の評価の差別化が結果として出てきにくい構図になっている。
こういう評価の在り方は、あまり差がつかず、あらゆる提案も似たような点数評価に収斂してしまうことが多い。
また評価点数の多寡で提案を失格にすることはちょっと考えられず、評価段階に至ればまず間違いなく認定されることになるのではないかと思われる。
評価の総得点数は公表されるのだろうが、認定の是非に関係ないとすれば、あまり意味のある内容ではなくなる。

もっとも足切りとして欠格になるのは上記評価の前段階の要求水準の審査だ。
提案が要求水準を満たさず、評価に値しないとみなされてしまう場合には、この段階で失格になる。
この要求基準とは公表された「区域認定申請の手引き」によると要求水準として19項目が列挙され、要求される内容・書式が指定されている。
但し、この手引きやその根拠となる基本方針を読んでみても、これら19項目を各々どう審査するのかという判断基準は必ずしも明確ではない。
どれか一つでも基準を満たさないと判断されれば欠格となるのか、一部充足しない側面がある場合はどうなるのか、基準を満たさなくとも修復の可能性があると判断できる場合には、修復を前提に評価に進むことになるのか、欠格となる必要十分条件は何か等はこの手引きに記載はなく、全く解らない。
かなり詳細な資料や確約、コミットメントを求められているにも拘わらず、これがどう評価され、失格か否かの判断に繋がるかが解らないのだ。
即ち欠格になるか否かの判断は極めて恣意的な判断基準で決められることになる。
かつ、「水準を満たさない」と言われてもその客観的判断根拠を明確に説明することは難しいかもしれない。
どこまでが適正で、どこ以下が不適切なのか、ものさしが開示されていないからだ。

問題は、この要求基準のハードルが極めて高く設定されていることにある。
例えば、資金調達の確実性を裏付ける客観的な資料となるコミットメントレターの提出、維持管理及び整備投資の内容・費用の開示、10年という長期に亘るB/S、P/L、キャッシュフロー計算書の提出、施設毎の利用者数、内部体制・組織、コンプライアンス実施のための体制・枠組み開示等になる。
建設に目途が立ち開業前ならば可能だろうが、今の時点で完璧な形でこの要求水準を充足する具体提案は可能なのかという疑念もある。
かつ、これら要求水準を満たしたとしても、その次の評価のための資料として、25の評価基準が定められ、更にハードルの高い資料の提出が求められている。
例えば、中核施設毎の運営の方針、事業毎の実施体制及び実施方法、第三者に委託する場合、契約書の写し、MICE開催件数、IR来訪者飲み込みとその推計方法、事業毎の整備・運営・維持管理等実施体制等である。
区域認定後はその実践が継続的な評価対象となり、区域整備計画で提案する数値がKPIとして認識されるため、この基準から単純に逸脱できない構図になっている。
認定を受けると、その修正は再度認可の対象となり、当初のコミットメントを将来薄めることができない仕組みを前提としているわけだ。
例えば認定を受けた後で、資金調達がうまくいかない、市場性が無い等の理由で施設規模を縮小したり、投資規模を下げたりすることが簡単にできないようにしている。
問題は開業迄に4-5年かかり、その後の長期に亘る運営計画や収支計画等の詳細を準備し、提出するにしても、中期的には将来の事業環境は確実に変わってしまうことにある。
修正はできる立て付けになってはいても、認可が必要であり、KPIからの大きな逸脱は問題なるかもしれない。
申請時の確約と異なるではないかと認可当局から区域認定の妥当性につき指摘を受ける可能性があるからである。

上記は、区域整備計画を準備し、策定することは結構大変な作業になることを示唆している。
IRを構成する施設毎にある程度基本設計作業を終え、整備と運営・維持管理の体制を整え、協力事業者等を確定し、所掌・リスク分担・委託契約等を締結できる直前迄準備し、資金調達も出資・融資相当分を含めて確約を取り付けるということになると、事業のかなりの詳細部分迄の枠組みを固め、これらが利害関係者により精査され、同意を取得できていなければ、国が求める要求水準や評価基準を充足できないということになりかねない。
区域整備計画申請迄に全てを固めろという国の考えには本来無理がある。

区域認定申請はどのような内容でなされ、国はどうこれを審査・評価するのかが、今後最も注目すべき要点となる。
実際の国による申請の審査、評価は2022年4月28日以後になる。
議会に対する説明や地域の利害関係者との合意形成を取り付ける必要があるため、2~3月の議会定例会にて同意を取り付けることを前提とすると2021年末迄には都道府県等の区域整備計画案の大枠を確定しておかないと間に合いそうもない。
時間はありそうであまりない。
本年11月迄に確定するとしている都道府県等があるが、結構タイトなスケジュールだ。
拙速は避け、準備に熟慮を重ね、最後迄時間をかけることが得策ではないのか。

(美原 融)

Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.
Top