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2020-07-10

6.区域整備計画の作成・提出と大臣による区域認定

区域整備計画とは、IR整備法第9条、並びに基本方針第4項に基づき、IR誘致・区域認定を欲する都道府県等が、自ら選定した民間事業者と共同して作成し、国土交通大臣に提出する申請書類になる。国が定める一定の判断基準を満たす場合、国土交通大臣の認定を受けることができる。国と自治体との関係では、こういうケースの行政手順は、制度上の一定要件を満たせば、自動的にかつ誰に対しても認定なり、認証なりがなされることが我が国での通例となる考え方でもある(例えば昔の話になるが1987年のリゾート法~特定保養地域整備法~の認定プロセスを想起したい。申請した自治体は要件を満たす限りほぼ自動的に認定を得られた。これがために申請しなければ損とあらゆる道府県が申請ラッシュをし、これら全てが認定され、リゾートバブルが生じ、過半が失敗することになった)。ところがIRではそうではない。IR整備法第9条第11項七の規定に基づき大臣が認定すべき区域の上限数は3つに限定されているからである。申請する都道府県等が3つ以内なら大きな問題は起こりにくい。申請者全員が認定を受ける可能性が高いからである。但し、もし、4つ以上の都道府県等が申請したとすれば、認定を受けられない自治体が生じることになり、必然的にこれら都道府県間の競争が生じることになる。かつ国土交通大臣は、基本方針において定める一定の判断基準・評価基準に基づき区域整備計画を審査・評価し、より優れた計画を提示した都道府県等を選ばざるを得なくなる。 

都道府県等や民間事業者にとり、国土交通大臣が如何なる手順、如何なる判断基準・評価基準で区域申請を評価し、認定するのかということは極めて重要になる。この考え方は国土交通大臣が定める基本方針(IR整備法第9条)で取り決められる。基本方針は、区域整備計画として大臣に提出すべき計画の内容(事業方針、事業計画、施設計画、運営計画等)を規定し、要求水準、評価基準を定め、一定の項目を評価することを規定する(①国際競争力の高い魅力ある滞在型観光の実現、②経済的社会的効果、③IR事業運営の能力・体制、④カジノ事業収益の活用、⑤カジノ施設の有害影響排除)。全体の提案や施設毎のコンセプト、スケール、デザイン、提供される機能、全体の調和等の詳細が評価されるのであろうが、項目毎の重みづけやより詳細の配点等は、後刻大臣が諮問する認定評価委員会が定めることとされており、現段階では明らかではない。もっともどこまで情報開示されるのかは不明である。都道府県等にとり、本来どういう評価判断基準で審査・評価がなされるのかの詳細を把握した後に、これを踏まえて自らの実施方針を定め、かつこれを反映する募集要項(RFP)を規定することが本来あるべき手順となるのだが、都道府県等は十分な情報が無いままに、見切り発車せざるをえない状況に追い込まれている。区域整備計画の提出期限が基本方針で定められることになるため、現状案の提出期間(2021年1月7日より7月30日)から逆算して、行動計画を決めざるを得ず、国土交通大臣が詳細を決めるまで待ち、それから行動するでは、時間が足りなくなってしまうからである。勿論大枠は決まっているため、走りながら後から調整することはできるし、基本方針第4項2、(3)は、国の基本方針策定を待たずに、都道府県等が実施方針を定め、先行して作業すること、後刻国の方針に合わせて、実施方針・募集要項を調整することも可能であることを認めている。

尚、都道府県等が国土交通大臣に提出する区域整備計画の提出期限だが、基本方針第4項4 はこれを2021年1月4日から2021年7月30日までとしている。提出期限に一定の期間を設けて、受け付けるということになるが、都道府県等にとり重要なのは期限のみであって、期間ではない。早く提出すれば、国による区域認定が早くなされ、より有利になるということにはならないからである。国にとり、提案される区域整備計画が三つ以内なら、確かに自治体間の競争とはならないため、早い者順で、提出あった都道府県等の整備計画を順次審査・評価し、判断してもいいのかもしれない。この場合、First Come, First Servedは成立しうる。一方もし区域整備計画を提出する都道府県等が四つ以上存在する場合、早く提出すれば、早めに認定されるというFirst Come, First Servedでは明らかに不公平になる。期限迄待ち、全ての区域整備計画が出そろって、初めて審査・評価の体制をとることが公正性と説明責任を担保できる唯一の手段でもあろう。現状、最低四つの都道府県等が実施方針策定・募集要項公表への手順を進めているため、First Come, First Servedはありえず、2021年夏から秋にかけて、区域整備計画の審査・評価・認定の手順が踏まれることになると想定されている。尚、IR整備法参議院付帯決議八項も「政府は区域整備計画の申請の期間に関する政令を定めるに当たっては、各地方公共団体による申請を公平に受けられる期間とすると共に同計画を認定するときは国会に報告すること」(平成30年7月19日)とある。

上記事情から、政府が予定を変えないとすると、全ての都道府県等は2021年7月末に区域整備計画を提出することになると想定され、この場合、6月の定例議会に区域整備計画申請に係る議案を提出するのであろう(議会に申請する段階でその内容を公開するに等しくなり、早めに議案を出せば、競合している都道府県等に情報が洩れるリスクもあり、おそらく同様のタイミングで行動する)。自治体による全ての行動は、ここから逆算し、区域整備計画に必要な時間、選定事業者との条件交渉に必要な期間、評価審査に必要な期間、募集要項の期間等を決めている。問題はこれでも都道県等にとりかなりタイトなスケジュールになることだ。かつ、コロナ禍で市場における投資意欲が極度に落ち込んでいる状態で、予定通りに強行することは適切といえるのか議論する余地はある。市場環境に激変があり、投資意思決定が難しい状況における競争は、合理的な判断を歪める方向に利害関係者を誘因することがあることを理解すべきだ。

(美原 融)

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