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2021-04-05

78.カジノ免許取得前に必要となる契約の認可 ① 問題の所在

IR整備法第94条は(カジノ事業者による)契約の締結の制限を、また第95条から102条は、契約の認可、申請、認可基準、認可の取り消し、契約の届け出等を規定する。
第94条は、カジノ事業者は一定の要件を満たす主体、内容でない限り契約を締結してはならない旨を規定し、契約の相手方の要件、内容を明確に定義する。
清廉潔癖性に欠ける主体がカジノの収益の一部に合法的な契約の形をまといアクセスすることを厳格に規制する意図なのであろう。
一方第95条1項に規定する内容は、カジノ管理委員会の許可を得ることにより締結が可能となる種類の契約を定義し、1号はカジノ業務に係る契約又はカジノ行為区画内関連業務に係る業務、2号はカジノ事業者が行う業務の委託に係る契約、3号はカジノ事業者が行う業務に係る資金調達に係る契約、4号はカジノ事業者が行う施設の賃貸に係る契約、5号は前各号に掲げるもののほか、その契約の期間又はその契約に基づき支払う金額がカジノ管理委員会規則で定める期間又は金額を超える契約とあり、かなり網羅的な規定になる。
これ以外にも第99条は契約の届け出を規定し、「第95条第1項、各号に掲げる以外の契約であって、カジノ事業の健全な運営に影響を及ぼす業務としてカジノ管理委員会規則で定めるもの」、「これ以外でも1年以内に再度同一の相手方と締結するもの」はカジノ管理委員会への届け出が必要になる。
何のことはない。
カジノ管理委員会は自らが必要と判断するあらゆる重要な契約に係る認可権を持ち、それ以外の場合であっても必要な場合にはカジノ事業者に契約届け出義務を課すことができることになる。
尚、都道府県等と認定設置運営事業者等が締結する契約は第94条1項の規定に基づき、例外として、カジノ管理委員会の認可対象外になる。
これは別途第13条第2項に基づき、その締結、変更は国土交通大臣の所管になり、同大臣による認可を必要とする枠組みが別途規定されているからである。

この様な重要契約に関する規制当局による契約認可・届出等は先進諸外国でも実践されており、おかしな規定ではない。
但し、これはカジノ管理委員会に対する申請者は「カジノ事業者」たることが法律上の前提になる。
即ち、カジノ管理委員会からまず免許を取得できていなければ、申請者たる法的資格を持ちえないことを意味する。
また第95条第2項は「認可を受けないで締結した同項各号に掲げる契約は、その効力を生じない」とある。
問題は、カジノ事業者の免許申請ができるのは法的には認定設置運営事業者となり、国土交通大臣が区域認定をし、都道府県等との実施協定を締結し、法律上の認定設置運営事業者となってから以降になる。
かつカジノ事業者の免許申請をしたところで、免許が取得できるまでは、カジノ事業者としての制度上の地位が確定していないため、重要契約の認可申請をカジノ管理委員会にできないことにある。
即ち重要契約の認可申請と許可には二つのハードルがあり、①区域認定を国土交通大臣から受けていること、②カジノ管理委員会からカジノ免許を取得できていることが法的な条件になる。

制度的にはごく当たり前で全くおかしくないと思える上記規定は、実務的には処理不可能に近い複雑な問題を孕んでいる。
もし、カジノの免許が申請後直ちに処理され、例えば申請後数か月以内に確実に免許が取得できると合理的に想定できるならば、何ら問題は生じえない。
但し、諸外国ではライセンスの付与は詳細な長期に亘る当該企業並びにその構成員に係る背面調査や審査を全ての前提とし、1~2年の長期に亘ることも珍しくもない。
シンガポールの場合等は施設が完工し、開業予定直前になり、ようやくカジノライセンスが付与されたという次第になる。
カジノライセンスの要件の厳しさ、提出すべき書類の複雑さと多さ、カジノ管理委員会の体制等を考慮すれば、かなりの時間がかかりそうなことは想定できる。
この場合、本来契約認可を申請すべき重要諸契約の申請がタイムリーにできないことになりかねない。
特に融資金融機関との融資契約(95条1項3号の対象)、請負建設事業者との建設工事契約(95条1項5号の対象)等はカジノ事業者(認定設置運営事業者)にとっては、最も重要な契約で、区域認定後できる限り速やかな段階でこれら契約を締結し、発効させなければ、何も進まなくなってしまうからだ。
この場合、カジノ管理委員会による審査とその結果が不明なるため、認定設置運営事業者によるカジノ管理委員会からの免許取得並びに、契約に対する同委員会からの認可取得が契約発効の停止条件(Conditions Precedents)とならざるを得なくなってしまう。
条件を達成できなれば融資契約も請負工事建設契約も発効できず、長期に亘り、何もできない。
カジノ免許取得に数年かかるとすれば、そもそもこれら契約自体が何時までたっても発効できず、契約解除になりかねないというおかしな状況が生じることになる。
勿論認定設置運営事業者の親会社が保証すれば融資金融機関はこの停止条件をはずすかもしれないが、これは最悪の場合、融資はゼロ、全額親会社が全ての資金を拠出することを意味し、現実的な選択肢ともいえない。
認定設置運営事業者がカジノ免許を申請できる地位を得た段階から、カジノ免許を取得できるまでの間に重要契約を締結せざるを得ない事情がある場合、規制機関が何等かの形で実務的に対処することが本来好ましいアプローチになる。

実務的にカジノ免許申請の審査にどの程度の作業量と時間が必要か、個別の事象の時間的順序と実務上の要点のタイミングを考慮せず、バラバラに制度の要素を構築し、一見整合性がありうるように作り上げたことに制度上の見落としが生じてしまったのだろう。
現状のIR整備法は、カジノ免許の申請から取得に左程時間を要しないという前提に立脚している。
行政手順として1~2年の長期の審査が必要になるとは到底考えていないのだ。
知らぬ間に、制度と制度に内在している実務との間に矛盾が生まれてしまったということになる。
対処方法はいくつかあろう。
但し、実務上の妥協あるいは制度の柔軟な解釈による運用等が必要になる。
早めに対処方法を決めない限り、実務レベルでは確実に混乱が生じてしまいそうだ。

(美原 融)

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