National Council on Gaming Legislation
コラム
  • HOME »
  • »
  • 301.元ドジャーズ通訳水原一平詐欺事件の余波

2025-02-24

301.元ドジャーズ通訳水原一平詐欺事件の余波

2月6日米連邦地裁はドジャーズ・大谷選手の元通訳で、銀行詐欺罪などに問われた水原一平被告に対し、検察の求刑通り、禁固4年9ケ月、保護観察3年、大谷選手並びに内国歳入庁(IRS)に対し損害賠償(1697万㌦、115万㌦)を判決した。
昨年夏に本コラムで指摘した通り、水原被告は賭博依存症等ではなく、単なる欲深さにより賭博借金の返済のために大谷選手の資金に手を付けたという内容である。
水原被告が賭博行為の借金返済のために最初に大谷の資金に手を付けたのは2021年9月($4万)だが、当時の彼の預金口座から十分払える金額であったことが確認されている。
要は自分の資力で返済できたにも拘らず、大谷の資金に手を付けたのだ。
2021年9月から2024年1月迄1万9000回の賭け、勝ちは1億4225万㌦、負けは1億8293万㌦というから尋常な数字ではない。
全て元手はゼロ、与信枠で賭け、賭け負けの単価がどんどん膨らみ、勝ちは自分の懐に、負けは大谷の金を盗むことで、次第に抜けられなくなったのだろう。
水原被告は、自らは重度の賭博依存症患者として情状酌量・減刑を申し出たが、医学的にもその兆候はなく、単なる言い訳に過ぎないということで一蹴されている。
検察はその証拠の一部として(大谷選手になりすました)水原被告と銀行との通話記録をマスコミにリークし、米国でもメデイアが取り上げ大きな話題となった。
尚、連邦法での罪状は銀行詐欺(これは重罪)、虚偽の税申告であり、違法賭博行為への参加ではない。

尚、上記と殆ど同じタイミングでネバダ州の賭博法執行機関であるGCB(Gaming Control Board)が最終規制機関である同州Gaming Commissionに対しこの事件のもう一人の主役であるMathew Bowyerとその関係者に関わる制裁申し立てをしたことは日本では報道の対象にもなっていない。
水原事件とは直接の関係はないのだが、このBowyer氏が如何なる人物であったのかがこれで解る。
Bowyer自身は既に昨年8月9日に違法ブックメーキング(違法スポーツブックの運営)、マネーロンダリング、虚偽税務申告等で連邦地裁に訴追され、罪状を認めており、判決言い渡しは4月4日になる予定だ。
ネバダ州規制機関が制裁申し立てをした対象は大手カジノ事業者Resort Worldとその株主4社(マレーシアGenting社とその投資子会社3社)並びにBowyerの妻Nicole Bowyerである。
Resort World社に対する制裁容疑は過去違法ブックメーキングに関与し、犯罪組織とも関与が疑われ、連邦法での制裁対象でもあったMathew Bowyerに対し、その事実を知りながら、資金ソースの詳細チェックも必要なDue diligenceもせず、巨額の賭け金行為を長期に亘り暗黙裡に認め、義務となる規制機関報告も怠ったとしてネバダ州ゲーミング管理法違反、ゲーミング委員会規則違反とされたものである。
これはカジノ事業者としては、致命的な失態でもあり、コンプライアンスもガバナンスも全く機能していなかったということになる。
   
Bowyerは違法ブックメーカーとして反社会的組織と結託し、スポーツブックを主催、著名人やスポーツ関係者等その名前を知られたく無い人を顧客とし、与信を付与し、違法闇サイトを通じてスマフォで賭けさせたわけだ。
彼にひっかかった一人が水原元通訳になる。
水原元通訳の賭け行為の詳細はスプレッドシートに詳述され、裁判所に提示された模様だが、アメフト、バスケ、サッカー、大学野球等多岐に亘リ、これも尋常ではない。
Bowyerはこの違法闇賭博で収益を上げ、何とその収益で今度は自分がラスベガスで巨額の賭け行為を平行的に継続していたことになる。
この端緒は2021年11月にResort Worldに対し、$5000のクレジット申請を行い、認められたことで、その直後今度は$1万㌦の預託金申請を行っている。
申請書にはカリフフォルニアの不動産事業者という記載はあるが、会社の概要/売り上げ等は調査しても不明、現ナマを持ってはいるが、どこのだれかも解らず、資金の出所も不明、資産は家屋のみということで、あきらかにVIP待遇顧客としては不適切だ。
かつ疑わしい取引として規制当局への報告義務対象となるべき顧客になる。
Due Diligenceを意図的に怠り、コンプライアンスも無視したわけで、巨額の現金を預託する潜在的VIPには盲目となる悪しきガバナンスがここにある。
2022年4月にはBowyerは何と妻であるNicole BowyerをResort Worldの独立エージェントとして契約させ、自分のCasino Host(VIP接客役)に指名させ、賭け金の一部を妻へのコミッションとして回流させていたようだ。
この結果Resort Worldの旧経営者はコンプライアンス不備、ガバナンスの欠如として制裁対象となり、大手企業経営者としては稀有となるが、個人の免許剥奪事由にあっている。
今回の制裁申し立ては法人としてのResort Worldのコンプライアンス、ガバナンス不備になり、長期に亘りマネロン対策(AML)報告等を無視し、犯罪者と知りながら、顧客として囲いこんだ違法性を問われたことになる。
一方、Nicole Bowyerの方はGCBとの和解協定が成立し、本人は独立エージェントとしての個人免許のはく奪、5年間ゲーミングに関わる業務従事への禁止、捜査当局に対する協力、罰金無しということで基本合意したことが公表されている。
問題はResort Worldとその親会社Genting Groupへの制裁だ。
トップ経営陣は刷新され、何と元法執行機関(GCB)の長、元ネバダ州知事、元競争相手の著名な経営者に挿げ替えるという誰もが否定できない面子をそろえたのだが、巨額の罰金刑となるのは間違いない。
さすがに免許剥奪にはならないと考えられてはいるが、過去に例のない不祥事でもあり、親会社たるGenting Groupの評価にもつながりかねない。
例えばGenting社は本年事業者選定となるニューヨーク州の巨大IR事案にも応札予定だが、これに何らかの影響がありうるのではないかという意見も聞こえてくる。

(美原 融)

Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.
Top