2022-06-06
160.阿武町誤給付金・ネットカジノ騒動
山口県阿武町が4630万円を誤って送金した問題は、受け取った24歳の男性が「ネットカジノで全額使った」として逮捕される刑事事件に発展したが、マスコミやワイドショーはそもそもネットカジノとは何?から始まり、こんな高額を使えるのか、なぜこんなことができるか、なぜ回収できないのか等かなり混乱した議論がまかり通り、結果的にカジノや賭博行為に対する否定的なイメージを国民に植え付けるという倒錯した話になってしまった。
ある日突然見覚えのない巨額の資金が銀行口座に入金し、これ幸いにとパチンコや日頃少額で遊んでいたネットカジノで全額遊び、使ってしまったということの様だ。
この事案に対し、精緻なIR法等を作ったにも拘らず、どうしてこんなネットカジノが存在し、なぜ規制していないのだというおかしな議論を持ち出した某局某コメンテーターもでてくる事態となった。
ネットカジノと陸上設置型のカジノは考え方もあるべき規制の在り方も全く異なるのだが、一般庶民にかかることを説明したところで理解できるはずがない。
やはりカジノはいかがわしい、悪い金が流れている、胴元が全額巻き上げた、これはマネーロンダリングだ、税金が騙されて取られた等こうなると論理もへったくれもない混乱の極めになる。
こんな巨額の金を短期間にネットカジノで使えるのかということだが、過去ネットで遊んだ経験がある御仁であれば、2週間という期間に全額使うことは当然できる。
今やネットバンキングの世の中だ。
スマホを用い、自分の銀行口座から、一定金額を電子決済サービス業者に振り込めばアッという間にアカウントを設けることができる。
このアカウントから賭け金額を都度引き落とすことにより、これとリンクしたネットカジノ事業者のサイトで遊べることになる(実際のアプローチはまずネットカジノ事業者のサイトから入ることになり、支払い手続きをしようとすると電子決済サービス事業者のサイトに誘導される)。
公表された預金通帳写しを見ると、町による返還請求があった後に銀行口座からスマホで電子決済サービスを利用し、1万㌦単位で電子決済サービス事業者の本人名義アカウントに毎日円送金、㌦転する手法と、上限の無い高額で別の決済サービス事業者に円振り込みをしたり、デビットカードを使用する手法等とを組み合わせており、中々賢い。
勿論これは預託にすぎず、実際この金額を全部使ったのか否か、残額があるのか否かは本人がベット履歴を要求すれば確認できる。
当然町と警察は本人同意を取得し、預託残額をまず最初に調べたはずだ。
使ったと主張するならば、何をするにせよその確認を取ることが調査の第一歩となるからである。
預金通帳(銀行口座からの振り込み記録)等は使った証になるわけがない。
ところがこの実態は全く開示されず、町が金融機関に対し国税徴収法に基づく差し押さえ、同時に裁判所に電子決済サービス事業者の口座の仮差し押さえを行い、警告書を発出すると共に、裁判所に対容疑者返還請求訴訟を提起したところ、電子決済サービス事業者から町に過半の返還送金があり、またぞろ大騒ぎとなった。
本人指示により残額を返却したのか、あるいは資金は全く使っておらず、隠しただけなのか、はたまたアカウントには残額が無いが電子決済サービス事業者が自主的な補填をしたのか等何が理由で9割方の金額が返還されたのかを誰も説明しないのだ。
マスコミは決済代行事業者等と呼称しているが、通常のネット関連支払いを担う名の知れた電子決済サービス事業者のことでネットカジノの支払い代行だけをやっているわけではない。
この事業者あるいはネットカジノ事業者が警察沙汰・訴訟沙汰を嫌がり補填したのではないか、正当な手法ではない圧力により自主的に補填させるように仕向けたのか否かは不明だ。
関係者は当然熟知しているにも拘わらず、口をふさいでいるということは、表にしたくない事情があるということなのだろう。
尚話題になったネットカジノ賭博はサイバー空間にはあまた存在するのだが、わが国では本来現行刑法では違法、顧客として我が国の国民が参加することも違法だ。
これらネット賭博サイトは、外国の規制機関の認知を得た外国企業が外国からネットを通じ我が国の国民に賭博行為を提供している。
かかるサイバー空間で外国企業の行動を規制できる法律は我が国には無い。
巨額の金額が違法行為に用いられているという事実はあるのだが、賭博行為の提供者たる外国に所在する企業は本邦刑法の対象にならず、わが国国民がネットで遊んだ所で摘発も不可能、いかさまが存在したとしても被害届もでてこないだろう。
これでは犯罪の構成要件を満たさず、摘発もできないということになる。
もっとも上述した電子決済サービス事業者は単なる決済代行をしているにすぎないのだが、アカウントからの賭け行為に係る入出金管理に深く関与しており、ネットカジノ提供事業者との関係も実際どうなっているのかは必ずしも明らかではない。
この意味では、グレーな領域のビジネスを幇助しているといえないこともないわけで、この辺の事情が表になることを忌避したというのが阿武町誤給付金騒動の実態なのかもしれない(尚、銀行預金口座から直接カジノ事業者に振り込んだり、クレジットカードで振り込んだりすることはできるが、このルートを通じ逆に勝ち金を振り込むことができない場合がある。
金融機関やクレジットカード会社はマネーロンダリングを疑われることを忌避したり、賭博勝ち金の入金を嫌がったりする所が多いからだ。
この場合には、別の入金手法を用意せざるを得ないことになる。
もっとも、支払いの振り込みは即認知され、遊べるのだが、勝ち金を振り込ませるにはネット申請が必要で、時間がかかることもある。
一方、払い込みの振り込みと勝ち金の振り込みの両方ができるのが電子決済サービス事業者ということになり、顧客から見る場合、極めて利便性は高い。
但し、これはそれだけ賭博行為を幇助するグレーな領域に踏み込んでいる証左といえるのかもしれない)。
(美原 融)